第37話 変わっている二人の関係
そそくさとアリアンは入り口に行くと、ドアを開けてクラウシェラを招き入れる。
こういうのは侍女の仕事だし実際に控えていたのだけど、アリアンの方が早かった――というより、クラウシェラが怖すぎて近づくどころか視界にも入りたくないって感じがするわね。
ちょっと気になる……ゲームの開始時の彼女は本当に嫌な奴だったけど、ここまで恐れられているような描写は無かったわ。
カーナンの町を焼き払った事は共通した過去話だし、やっぱりヴァンディスト・グロウス城に帰った時の出来事が知られているんだろうなー。
あとはまあ、常に気を張って生きているからその雰囲気かな。
その点もちょっと気になっていたのよね。
また言うのもアレだけど、ゲームで登場したクラウシェラは取り巻きを引き連れた本当に嫌な奴だった。
でもそれだけ。彼女の怖さはやっぱり黒い竜の霧。
あれは彼女が生まれ持った特殊能力で、あの力の前では並の兵士では束になっても勝てやしない。
成長すると、無数の首を持つ本格的な竜になっていくのよね。
でもやっぱりそれだけ。攻略法は幾つもある。
要は、ごく普通の嫌な奴が凄い権力と凄い力を持っているって感じかな。
もちろん公爵家の権力は凄いなんてレベルじゃないし、持っている力もやっぱりそう。
その強大さは本当にラスボスにふさわしいものだったけど、ある意味テンプレ的な所があったのよ。
だけど今は全然違う。
なんだかんだでオーキスを近習にした事が正解だと認めてくれたからかな。
確かに公爵令嬢としての壁を感じるけど、無用に権力を振りかざすような真似を見た事が無い。
いやまあ多少は……んー、多少と言って良いのかな? でもとにかく昔よりはイメージが違う。
今の彼女は人間としても魅力を感じるわ。
これで王子が婚約を破棄したら、あの男クズね。
まあ実際そうなんだけど。
それとはっきりとは言ってないけど、多分今の歴史の大筋はゲームの開始に向かっている。
だけど今までとは全然違う。クラウシェラが変わった事もあるけど、変えた事も大きいはず。
もう取り巻きとは距離を取っているし、こうしてアリアンとも深い関係を築いている。
ゲームでのアリアンは距離を取りつつも、一方的な友情を感じていたようだった。
なのにクラウシェラは、彼女を歯牙にも書けなかったわね。
けれど今は違う。クラウシェラもまた、偽りなく彼女との遊戯を楽しんでいる。なんかいい傾向だわ。
こうして夜通し二人は話し合った。パジャマパーティーとか、なんか懐かしいわ。
まあ今はとにかくクラウシェラとアリアンね。
一つのベッドの上で笑顔で語り合い、敬語も立場の壁も無く、本当に友人として――ううん、対等な人間として話をした。
さすがにアリアンは敬語を崩さなかったけどね。
でも正直初めて見たわ。
これはここまでで変わったのかしら?
それともこれは予定調和で、ここから変えてしまう何かが……いえ、それはもう無いわね。
あたしが知る限り、もう入学まで事件らしい事件は起きていない。
あえて言うのならここでアリアンに会っている事だけど、語られなかっただけかもしれないしね。
取り巻きと距離を取った今、ゲームと同じ展開は考えられないわ。
「さて、そろそろ寝ましょうか」
「そうですね、クラウシェラ様」
『おやすみー』
――あなたも休んで良いのよ。ここは家や砦と同じくらい安全なんだから。
『あたしはあまり眠くならないのよね。ほら、精霊だから』
――だったわね。でもたまに話しかけても反応が無いから、たまには休んでいると思っていたのよ。
『確かにたまには寝るかな。でもそうかー、そんな事があったんのね。これからは用があたら大声で起こしてね。本当に、あまり睡眠は必要じゃない感じだから』
――わかったわ。
「どうかしましたか?」
「ううん、何でもないわ。それじゃあ寝ましょう。また明日ね」
「ええ、また明日」
そのまま二人は同じベッドで寝てしまった。
そりゃ確かにアリアンの部屋には彼女のベッドしかないけど、客室に……は無いか。
もうとっくに寝間着に着替えていたものね。
それにしても、途中で侍女が1度だけ紅茶っぽいのを持ってきただけ。
夕食もこの規模のお屋敷にしては少なかったわね。
一応は騎士候も貴族ではあるのだけど、あくまで兵団という立場。
公爵とか伯爵とか、あと忘れちゃいけない王家ね。
領土は持つけど、基本的にそういった大貴族に所属して軍事を専門にするところ。
それだけに領地の収入以上の兵力を保有するけど、それは所属するところからの支援で成り立っているのよ。
言い方を変えると将軍とかになるのかな。
だからかな?
まあお人柄もあるのだろうけど、ここフェルトラン騎士領の領主はあまり贅沢を好まないのよね。
その分、武具や鍛錬にお金をかけるから強いのよねー。
でも、その辺りはクラウシェラのエルダーブルグ公爵家も同じね。
他の貴族は優雅に贅沢しながら政争に明け暮れているけど、エルダーブルグ公爵家は違う。
徹底した武力を背景とした大貴族。
クラウシェラの中にいるからどうしても彼女贔屓になっちゃうけど、その辺のボンクラ貴族軍なんてまるで相手にならないのよね。
なんて暇な時間をもてあそんでいたのだけど、なんか焦げ臭い。
それに微かな煙……火事? 何処が? ここが?
『起きろー!』
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