【 これからは貴族の世界へ 】
第32話 変えようとしていた努力
その夜は当たり前のように、そのままエステウォーザ城に宿泊した。
アレからはあいさつ回りをしながらの食事会。
ダンスをしながらの立食だけど、当たり前のように王子とクラウシェラはそれどころじゃない。
もう挨拶がひっきりなしに来る。ダンスや音楽はただの賑やかしね。
ただこれで、最高権力者である王族と、最大の領土と武力を持つ公爵家が一つになった。
二人はその象徴であり、彼らにとっては未来の姿。
今ここで顔を売らないでどこで売るのって感じでもう大忙し。
多分サラリーマンだったら、カバンいっぱいの名刺を受け取っている所よ。
結局、解放されたのは完全に深夜。多分3時頃かな。
眠くてしょうがないけど、それより食事よね。
あたしは正確には食べないのだけど、クラウシェラの成長と共に感情がよりはっきりと伝わって来るのよ。
そんな訳で、今の彼女は空腹が頂点に達して相当に不機嫌だわ。
こっちもそれに引きずられるように空腹を感じているのよね。
けどダンスパーティーではこんなこと毎度の事。
ちゃんと気を利かせて、部屋には肉とスープだけとはいえ一応は軽食が用意してあったわ。
「ようやく茶番劇も終わったわね」
『だねー、ご苦労様。でも茶番って言っちゃうのはちょっと気の毒かな。みんな本気で祝福していたのよ』
「結果が分かっているのだから、こんなのは本当に茶番でしかないわ」
『それはまあ、ごもっとも』
侍女たちは追いだして、部屋にはクラウシェラ一人だけ。
本来ならドレスを脱がすのは侍女の役割なのだけど、彼女は自力で脱いじゃうのよね。
そんな訳でドレスをパパっと脱ぐと、数人がかりで無理やり取り付けたコルセットもさっさと外す。
ベルトや金具は後ろに付いているから大変なんだけど、体の柔らかさはさすがね。
そして下着姿で即食事。うん、とても伯爵令嬢には見えないわ。
傍に誰かいる時は優雅なのだけど、一人の時は一切取り繕わなくなった。やっぱりあの旅が影響したのかな。
『それにしても、さすがはクラウシェラね。あんまりにも堂々としていたから、周りの人たちも驚いていたよ』
「これで100回目なのだから、もうすっかり飽きたわ」
やっぱり記憶はしっかりしているな—。
「それより、やっぱり記憶の通りに進むのね」
それに関しては何とも答えに詰まる。
あたしにとっては、これはゲームが始まる前の
確かにねというか、そりゃそうよねとは思うけど、さすがにそれを言う訳にもいかないかな。
「でも変える事は出来る。それが分かっただけでも、貴方には感謝しているのよ」
『そ、そうなの?』
「ええ。最初の頃は半信半疑だったし力も無かったから後手に回ってしまったけど、これでも100回の記憶があるのよ。だから貴方が来て全てを思い出してから、色々と行動を変えていたのよ」
『まあ、オーキスを排斥しようとはしていたわね』
「貴方に邪魔をされたけどね」
フォークをプラプラと振りながらいたずらっぽく笑う。
お行儀が悪いけど、やっぱりこっちが素って感じ。
「あの時は、確かに自分の意志で彼を近習にしたわ。でも考えてもいたのよ、ここからどれだけ変えられるのかってね。わたくしが知る限り、学園に入学してから劇的に未来が変化する。そうね、まるで大木のよう。だから色々と手を打ってみたのよ」
『え、じゃあお屋敷が襲われた事も?』
「当然よ。そう毎回毎回、酷い目になんてあってたまるものですか。だからわたくしの裁量で動かせる資産と人脈を使って、可能な限りの事はしたわ」
『でも結果は……』
「ふふ、正直酷くなったわね。わたくしが知る限りではもっと早かったし、ケルジオス騎士候は確かに戦死するけど、反乱軍は鎮圧したわ」
『え? ならどうして』
どうしてカーナンの町の焼いたのだろう?
これは何度プレイしても変わらない過去の出来事。あたしはある意味他人事のように”こんな出来事があったのか”なんて考えていた。
でも考えてみればそうよね。その過去を知るクラウシェラが、何を手を打たないわけがないじゃないの。
「どうしてかなんて分からないわ。ただ動き過ぎたのかもしれないわね。わたくしが先手先手と動いたから、向こうは逆に本気を出したって所かしらね。感付かれている事をいち早く察知して、時間を遅らせてでも計画をより完全なものに修正した。おそらく、将来のために残していたであろう余力も全て吐き出してね。ようは向こうの方が上手で、わたくしはまだお子様だったのよ」
怒り――悲しみ――悔しさ。
表情には出さない彼女の感情が雨のように降り続ける。
彼女もまた、自身の運命から逃れようとしていた。
あたしが読み切れていなかっただけで、オーキスを外そうとしたのもその一環だったのかもしれない。
まあ打算の方が勝ったけど。
「そういえば、ジュネスとマニナは覚えているかしら」
『誰だったかなー?』
なんて忘れるわけはないんだけどね。
二人とも、学園に入った時点で最初からセットになっていたクラウシェラの取り巻き。
どちらも男爵家の令嬢で、何というか典型的な虎の威を借るキツネ? 的な感じだったわ。
まあよくある、悪役を引き立てるための腰巾着って所かしら。
「今までのダンスパーティーにもいたし、今日もいたじゃない。何度も話しかけてくるから覚えていると思ったわ」
『ほら、人って沢山いるから……』
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