第31話 王子との婚約
広い庭を抜け、いよいよ本城の入り口に入ろうと降りた時、入り口には2人の男性が立っていた。
あ、立っていたと言うのはおかしいわね。待っていたというべきだわ。
「お二方とも、お久しぶりですね」
「お久しぶりでございます。本日はこのような良き日を迎えられた事、心より祝福申しあげます」
「いよいよこの日を迎えられましたね。おめでとうございます」
「こちらこそ、わたくしの為にこのような席をご用意いただき光栄でございますわ」
深々と礼をするクラウシェラに対し、2人の男性も同様の礼をする。
普通ならもっと沢山いた配下や侍女が案内するものだけど、あくまでゲームの世界。
彼らがこれから王子との婚約会見場まで案内するのね。
向かって右にいる最初に話しかけてきた水色の髪の男性が3賢人の1人、ノーステッド・アイフォンス。
因みに3賢人っていうのは5武行典みたいな特殊な人じゃなくて、この国の財政を司る3人の事。こっちは神に選ばれた特別な人では無くて、あくまで役職なのよね。
彼は内政財務長官。実際には財務だけじゃなくて政治にもアドバイスを出すから賢人なのだけど、この国は立憲君主制。基本的な政治は国王と貴族が決めるのよね。
髪はさっき言ったように水色で、瞳は美しいブルー。
知的な方メガネがワンポイントね。
でも若いから、まだちょっと似合わないかも。
何せまだ17歳。世襲制ではなく能力制。但し貴族かどうかが大きなポイント。
そんな世界にあって、庶民から抜擢された神童よ。
背は確か設定では174センチね。
決して低くはないけど、この世界は背の高い人が多いし、体の線も細くて童顔だからちょっと見劣りするかも。
まあ物凄い美形だし、そこが良いってファンも多いのよね。
もう一人は王子お付きの一人にして、将来は王子直下となる近衛騎士隊の隊長。
名前はケンロット・ウルス・ウィルヘミナ。領地は持たないけど、正式な騎士の一人ね。
だから ウィルヘミナ卿と呼んだ方が良いかしら。そんなガラじゃないけど。
クラウシェラと初めて会った時は、まだ王宮第4近衛隊副隊長見習いって立場だってストーリーに出て来たわね。
この王宮第4近衛隊って言うのが王子直属の部隊なの。
まあ王子もクラウシェラと共に学園入りするから、彼の地位も学園の警備隊長というものになるのだけど。
身長は185センチ。筋骨隆々と言う訳では無きけど、当然物凄く鍛えられている。
それに立てた
しかも職務の関係で、出迎えなのに鎧を着て帯剣もしている。
何と言うか、全体的に圧が強い人よね。
まあ攻略対象なだけに、それはそれでイケメンだけどね。
ちなみにだけど、歳は22歳よ。
一通りの挨拶を済ませた後、3人は場内へと入った。
入ってすぐはメインホール。
城から少しせり出したここはお客をもてなす為の場所で、煌びやかな装飾が過剰な程に施されたテーブルやソファーなどの調度品、幾つもの扉、それに入り口の右横に上への階段。左奥には地下への階段がある。
見えないようになっているけど、実は階段には落とし格子もあるのよね。
豪華な接待用のお城と言っても、やっぱり城は城。守りは固いのよ。
実際に、幾つかのエンディングではここでクラウシェラの軍勢と戦うからよく覚えてる。
そう考えると、本当になんでこんな状況になったのやら。
……なーんて、今更不満はないけどね。
入り口のホールを右に曲がると、外にせり出した上へ上る階段がある。
そこには踏むのも躊躇われる様な贅沢な絨毯が敷かれ、左右には頭を下げたままの侍女たちと、逆に直立する非武装の兵士が並んでいた。
でも兵士達は目を合わせようとはしない。まあそれが礼儀だしね。
あ、ちなみにオーキスをはじめ、公爵領から連れて来た兵士は全員外で待機よ。
そのままぐるっと踊り場で回って2階に行くと、同じ感じで3階へ。
自分で歩くわけじゃないけど、豪華なドレスに高いヒールのクラウシェラにとってはなかなかに大変ね。
3階からは絵画を飾った長い廊下。
ここもゲームで何度も通った思い出。
見知った場所が増えるたびに、いよいよその日が近づいているんだなと実感する。
どんどん、ゲームの舞台へと近づいている。
あと半年で、本番が始まるんだ。
とか考えていたが、正面の扉が開いたと同時に思考が吹っ飛んだ。
大音響でならされる歓迎のファンファーレ。
音に叩かれるように感じるほどに響いて来る無数の拍手。
なんかものすごい圧力を感じちゃう。
中は王の謁見室。
左右の壁には楽団。その前には謁見の間に集まった各地の領主や有力者たち。
奥は高台になっており、そこには王様と王妃、そして王子の妹である王女フェリス・フレンゼル・クリーアラントが座っている。
だけど今日の主役はそうじゃない。
王様たちの前に立つのは、この国の王子にして次期国王、マルクス・フレンゼル・カーヴァ・クリーアラント。
魅惑の微笑みをたたえながらクラウシェラに右手を伸ばす。
そうか……この頃は、あの微笑みは彼女に向けられていたんだ。
何だろうか、心が痛む。
クラウシェラの境遇。受け入れた運命と覚悟。それをこのにやけたクソ王子が全部反故にしたんだ。
させたのはあたしだけど、それは置いておこう。そういうゲームだったんだし。
周囲からの歓迎と値踏み、それに畏怖の混ざった視線と音の圧力の中、クラウシェラは堂々と進んでいく。
場は一転して静寂に包まれ、さっきまでの喧騒が嘘のよう。
そして王子の前まで行くと、一礼し跪きながら王子の手にキスをする。
すると今度は逆に、クラウシェラが立ち上がり王子が跪き右手の薬指に質素だが見事なレリーフが施された指輪をはめる。
これで儀式は完了。事前にクラウシェラから聞いていたとおりね。
それと同時に再び巻き起こる拍手とファンファーレ。それに加え、誰もがそれぞれの言葉で婚約の祝辞を叫ぶ。
しかし、王様が立ち上がると一斉に静まり返る。
そして高らかに宣誓した。
「これより、ティルスロン王国国王リヴァン・フレンゼル・カーヴァ・クリーアラントの息子マルクス・フレンゼル・カーヴァ・クリーアラントは、ジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵の娘、クラウシェラ・ローエス・エルダーブルグとの婚約が決定された。神よ御照覧あれ! この前途ある若き二人に祝福を!」
再び湧き上がる大歓声。
笑顔で手を振る二人。
だけど、圧倒されたのは最初だけ。
何だろうか、薄っぺらく感じる。この後の事を知っているからかな?
そしてそれはクラウシェラも同じ……ではあるのだけども、表向きは歓喜の笑顔を浮かべていながら、そうとうな不快感を感じているわね。
心の中では婚約を破棄される前にどうやって王子を亡き者にしようか考えている。
何と言うか、さすがだわ。
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