第30話 いざ王都へ
4日後。
ジオードル・ローエス・エルダーブルグ公爵の娘であるクラウシェラ・ローエス・エルダーブルグと、ティルスロン王国第1王子、マルクス・フレンゼル・カーヴァ・クリーアラントの婚約が決定された。
このために、ティルスロン王国の王城であるエステウォーザ城まで移動してきたのだ。
領土や財政課関係は既に逆転しているとはいえ、あくまで公爵家は王家に使える立場。
それに王家にはまだ多数の貴族領がある。
それらを加えれば、微妙ながら王家の勢力が公爵家を上回っているわね。
でもまあ、そんなの今は関係無いか。
あくまで主従関係をはっきりとさせるために、クラウシェラを王城に招いたのだ。
呼び出したともいうけどね。でも礼はきっちりと果たしていたわ。
『すごく賑やかな所なのね』
城下町全体が、クラウシェラ一行を歓迎しているように見える。
まあクラウシェラの乗る超豪華な馬車に加え、荷物などを積んだ馬車4台。それに護衛の騎兵300名。
そりゃ目立つし、公爵家の旗を掲げているのだから、皆事情は知っているわけよ。
まあ町自体はゲームで知っているけど、このシーンは知らない。
なにより、ゲーム画像とリアルでは全然違うわ。
「一応、わたくしの歓迎式典ですものね。この位の演出はするでしょうよ」
ドライだなー。
『まあ国民が祝っているのは良い事だと思うよ』
「どうせ破棄される婚約ですもの。わたくしにとってはどうでもいい事だわ。今考えないといけない事は、その後どうするかだわ」
そうなんだよねー。未来を知っているから、彼女はこの婚約には何の興味もないのよねー。
ヒロインにとってのバッドエンド。要は攻略失敗であったとしても、彼女の婚約破棄はその前に起きる。
だから何がどうなってもこの婚約には何の意味もない。
もしかしたらという希望はまだあるにはあるのだけど、クラウシェラの権力と知力の限りを尽くしてもエナ・ブローシャは聖女になった。
でもそれはゲーム開始前の事。そこまでは変えられない様子は元々あったのよ
何と言うか乙女の勘? 的な感じ。
もっと具体的に言えばオーキスの一件ね。
そりゃしっかりと説得はした。
でもあたしの様な得体のしれないものよりも、目の前にいるのは確かな自分の仇。
その辺りはちょっと複雑な感じもするけど、あたしが知るクラウシェラがあそこでオーキスを近習にするとは到底思えなかったのよね。
だって公爵家の令嬢よ。候補は他にいくらでもいるわ。
そりゃ窮地を救った事は幾度もあったけど、1度牙を剝いた相手を許す性格じゃないと思ったのよね。
それでもあえてオーキスを近習にした。
あの時点で、そこはかとなく感じてはいたのよ。
あたしの言葉があったとはいえ、ゲーム開始までの流れは多分変えられない。
でもゲームが始まったら? 多分そこからが本番だと思う。
でもそれまでに、変えられる範囲は少しでも変えなきゃ。
未来のために!
王城は公爵領のヴァンディスト・グロウス城と違って、城塞というより城下町として発展している。
町を囲む壁はそれなりに立派だしお堀もある。だけど城下町と城の間にある城の壁はそれほど高くはない。
守りよりも景観と発展を重視した感じ。
安全への絶対の自信があってこそよね。
ただそれでもさすがは王城という感じで大きい。
それに真っ白い外見に青い屋根。
幾つかある塔も同じ感じ。
『美しさでは、さすがにこっちの方が上ねー』
「当然でしょ。ここは外交の使者を迎える場所でもあるのよ。みすぼらしい城に住んでいる王に誰が敬意を払うのよ。他国から侮られるって事は、それだけで戦争に発展する事もあるのよ」
『厳しい世界ねえ』
「精霊の世界が暢気すぎるのよ。人間の世界なんてそんなものなの。いつでも誰かが誰かを狙っている。個人でも、国でもね」
さすがに100回も破滅した人の言葉は重いわ。
「一方であたしたちがいた城砦は、戦っても勝てないという威圧を与えるため。役割が違うのよ。でもどちらにも共通の意味があるわ」
『どんな?』
「戦いを未然に防ぐという役割よ。結局は、それが一番大切なの。実際に飾りとしてだけの存在であるのが一番良いのよ」
『そうだね』
クラウシェラが本心でそう言っているのは、もう心の紙を見なくても分かる。
ゲームが始まるまでの流れは変えられなくても、そこまでの考え方は変えられるかもしれない。
考え方が変われば行動も変わる。
そこから先は、多分ゲームと同じ。無限の自由度と可能性を持ったフリータイム。本番はそこからよ。
そんな事を考えながら、馬車は城へと入って行った。
▼ ▲ ▼
お城の門を超えて緩い坂道を上ると、そこには噴水のある実に豪華な入り口が控えている。
ゲームで何度も見ているけど、現実で見るとやっぱり違う。
クラウシェラを通じてだけど、肌を流れる風。草や花の香。噴水の音。死して美しく
全部が現実。いやまあ今までもそうだったんだけど、ここまで美しいとね。
やっぱりモニター越しの絵とは違うって感じちゃうものよ。
そしてその入り口には2人の男性が立っていた。
その姿を見るや、クラウシェラの思考が山ほど撒き散らされる。
そりゃまあそうよね。あの二人共に攻略対象。
そして王子に近いだけあって、まあ何度も破滅に関わっているのよね。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます