第29話 変わらない定め
ここからのゲームの流れとしては、クラウシェラが王子と婚約。
その過程で様々な攻略対象と知り合うわ。
きっかけや関係はゲーム中でそれなりに知っているけど、実際にどうなるのかは楽しみね。
というか、楽しんで良いのかしら?
もうオーキスと出会った頃より大人だし、王子に対してもすぐさま危害を加えようとする事はなかった。
計画は凄く沢山。それも綿密に練っているけどね。
そして多分だけど、もうじきエナ・ブローシャが修道院に拾われる。
既にクラウシェラは目的の修道院周辺に兵を配置しているわ。
その目的は残党狩りと称しているけど、当然ながら目標はエナ。
当時の内乱に関わっていたと考えられる少女が目撃されたから、捕まえて証言させるというのがお題目ね。
本当に捕まったら、多分酷い拷問の末に殺されてしまうと思う。
でもあたしは止めなかった。
というか、止めなかったら確実に婚約を破棄されて破滅するのだから、どうにもならないわ。
それにね、ここはどう考えても現実。
だけど、あたしの知っているゲームの世界でもある。
だからこれは賭けというか、強制力の問題を知りたいのよ。
だから実際に捕まったら、酷い事をされる前に全力で説得して遠くに逃がす。
今のクラウシェラなら、おそらく本人と会えば納得してくれる。基本的にヒロインは人畜無害な聖人なのだから。
そこに中の人が入るから問題なのよね。
そんな訳で、捕まえても実際に遭うまで何もしない事を約束してくれた。
彼女も多少は興味があるのよね。
だってあたしは毎回違うルートで攻略していたわけだから、クラウシェラにとっても興味を引かれる未知の存在な訳よ。
そしてもし囚われなかったら?
普通なら考えられない。
大々的に兵を動かす事は出来なかったけど、それでも彼女の権力下で動かせる兵は1000人を超える。
しかも場所も名前も容姿も分かっている。
これでどうにか出来なかったら嘘よ。
でもゲームでは、2人は学園で初めて出会う。
もし全ての包囲網をすり抜けてそれが実現するとしたら?
運命の強制力とでもいうのかしら?
この世界は、やっぱりゲームという縛りの中に存在する事になる。
でもその時、ヒロインであるエナ・ブローシャはどんな行動をするのかしら?
プレイヤーの入っていない設定だけの存在。
だけどそれは意思の無い人形ではなく、しっかりと血肉の通った人間。それはクラウシェラや他の人を見れば分かる。
どう動くのか、興味は尽きないわね。
▲ ▼ ▲
そして新たな夏を迎え、クラウシェラ・ローエス・エルダーブルグは15歳になった。
4月になれば、彼女は貴族専門の学園に通う事になる。
普通の貴族は学園に通う事は無いのだけど、そこはそれ。ゲームがそうなっているのだから仕方がない。
まあ基本的にはここまでやって来たダンスパーティーの延長みたいなものね。
今までと違い全寮制。まあ全員個別のお屋敷なのだけどね、貴族様だし。
そのせいもあって、これまで以上に様々な人間が集まって来る。
特に重要なのが、国内だけでなく他国の貴族も留学して来るって所ね。
あそこは学園でありながら、出会いの場。外交の場。そして静かな戦場だった。
そしてそこには、エナ・ブローシャがやって来る。
クラウシェラの包囲網でも、彼女を捕らえる事が出来なかった。
そして修道院は国教に属する治外法権。
いくら公爵令嬢でも、国教相手に喧嘩は売れない。
そして彼女は、そこで聖女として覚醒した。
天から鐘の音が響き、壁をすり抜けて彼女をまばゆい光が照らしたという。
これは聖女の証。この時点で、もはや外に出ても彼女に手を出す事は出来ない。
世界中が、この出来事を知ってしまったのだから。
外ではカラカラと馬車の車軸の音が鳴っている。
今はさほど長くはない旅路の途中なのよね。
「聖女エナ・ブローシャか……貴方の言うとおりになったわね」
オーキスは外で護衛。
彼女と密室で一緒になって、恐怖に耐えられる侍女はいない。
それが逆に2人の時間を作っていた。
『ん? 何か言ったっけ?』
「多分捕まらないんじゃないかなーって、間の抜けた感じで言っていたわよ」
『そうだっけ? でもあたし的には、半々だったのよ。確証があったわけじゃないの』
「その時から不思議に思っていたのだけど、貴方は彼女が聖女になる事まで知っていたわよね? 名前を出しても驚きもしなかったし。精霊ってそういうものなの?」
『未来は分からないわ。分かっていたら、貴方をあんな目には会わせなかったもの』
まあ反乱の件は、実際に全然知らなかったせいもありますが。
『だから彼女の事も詳しくは知らない。でも聖女であることは知っていたわよ』
「聖女である? なったという話は今日届いたのよ」
『それは神に祝福されて聖女としての自我と力に目覚めたってだけ。あの子は生まれた時から聖女だったのよ』
と、設定を語ってみる。
彼女の過去に関して詳しく知らないのはあたしも同じ。
あたしにとっての彼女は、ゲームが始まった入学式から。
でも過去の話は断片的になら知っているし、それが単純な“設定”じゃない事は、ここまで一緒に過ごして十分に理解したわ。
彼女の過去も、また真実なのよね。
「なら捕まらなかったのも当然ね。神の庇護があるのなら、人間にどうこう出来る相手じゃないわ」
そう言いながらも、かなり考えている事は分かる。
感情が動いていないから紙は降って来ないけど、長い付き合いだもの。
出会う前からこんなに考えても仕方ないのに。
それより先に考えなきゃいけない事があるでしょうが。
『そんな事より、今は4日後の事を考えなきゃ』
「もう小さな子供の頃から決まっていた事だし、わたくしにとっては今更だわ。せいぜい可愛がられて利用してやるわよ。破棄されるまではね」
そう言いながらも、心の中にはもやもやと嫌な感情が渦巻いてきたなー。
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