第15話 使命に殉ず
カッセとヘイルベルは過去の出来事として名前が出る程度の小さな村。ゲーム中だと何一つ描写も無いわ。
ただリリゼットは大きな町だったと回想絵があるのよね。ルートによっては廃墟にも行けるけど、たしか人口は8千人ほど。
ただまだゲームが始まっていないから、あたしはこの事件に干渉した事は無いのよ。
だから詳しい話は知らないわ。
だけど一つはっきりしている事がある。
今言われた3箇所は、どれも生粋の公爵領であって、ペルム騎士領には属していないの。つまりは――、
「カッセの村が襲撃されたと知らせがあった時に、すぐにリリゼットの町長から援軍要請がありました」
当然クラウシェラは知っているから今は省略されたけど、リリゼットの町から最も近くて、十分な遊撃兵力を持つ地域ががペルム騎士領なのよ。
「報告にあった敵兵は100名程度。おそらく食い詰め者が野党化したものだと判断し、我らは急ぎ編成できる騎兵600騎。それに後から騎兵200騎が歩兵3000名を連れてくる予定でした」
「確かに妥当な量ね。その時点では、だけど」
「おっしゃる通りで……ございます」
クラウシェラは顎に手を当てて思案している。
妥当というか、多すぎない? 相手は100人でしょ?
あ、でも結果はあそこに繋がるのよね。
「我らの到着前に、途中にあったヘイルベルの村は壊滅。あまりにも迅速な進行速度と目標を明確にしている点から考え、我々はこれが野盗ではなく、アゾール王国の残党軍だと考えました」
――うーん、たしかアゾール王国は公爵領に併合されたのは20年位前よね。あたしが生まれる前の話だわー。
いやもう年齢とか意味あるのかもわからないけど。
ただそんな昔に滅びた国が、軍隊とか用意とかできるの?
「しかし先にリリゼットの町に到着するのは我らが先。それに村の生き残りによると、敵の数は300人ほどとの事。あの町は防御には適しませんが、戦力的には問題無いと判断いたしました」
「騎士候ともあろう者が、その時点で予想しなかったのか! 斥候は何をしていたの!」
「面目もございません。斥候からの情報は、50人や200人の小集団の発見のみ。それが次第に近づいているとの事でした。我らは疑わなかったのです。彼らが町を包囲して、複数個所から攻撃しようとしていると」
――廃墟のグラフィックを見た限りでは、よくあるような城壁も無い平和そうな町そうだったなー。
この辺りの村や町は、日本の山々程じゃないけど小高い丘と森林に囲まれた感じ。
それぞれは少し孤立しがちで道は細く、どこも畑と牧畜、それに林業が主産業。
でも、アレがあったのよね。
「ふう……その時点で、敵の数はどの位と予想していたのです?」
「最大でも600人ほど。1000人超えないかと」
「愚かね」
まるで今から死刑宣告でも出しそうな程に冷たい目で睨みつける。
子供とは思えない迫力だわ。
実際、黒々としたオーラ―が背中から出ていて、それらは4つに別れた蛇の頭のような形にも見える。
まだ成長していないけど、いずれ彼女の代名詞にもなる恐ろしい武器となる能力。
でも彼女には、もちろんだけど騎士候を攻撃する気なんて無い。
むしろ見た目とは裏腹に、慈愛に満ちた心で彼の結末を憂いている。
いやゲームと違いすぎ。
それともゲームの中でも、実はそうだったとか?
……うん、それは無いわね。
「我々町に到着した時、既に炎に包まれ、陥落しておりました。逃げて来た町民の群れから話を聞いていたのですが、突然の襲撃で町の守備隊は何も出来なかったと。そして我らもまた、この時点で罠にかかっていたのです」
「ある意味当然ね」
『どど、どういう事?』
――先行したのは騎兵だけ。本業の斥候ではないから行動範囲は限定されるし、あまり発見されたくもないから見つけてもすぐに戻って来たでしょうね。
『それがなにか?』
――彼らは見られる事を前提としていたのよ。
おそらくは、100人程度の小集団で分散して行動していたの。
迅速な行動も、村を襲った部隊が別々と考えれば納得できるわ。
そして斥候として派遣された騎兵たちもまた、詳細な情報を得る事もなく次々と報告するために戻って来る。。
結果として、複数個所で見つけた敵の集団が、移動中の同じ部隊だと考えたの。
だけど現実は違った。斥候が見つけたのは、それぞれ違う集団。
『そうなの!?』
――結果から考えればそれしかないでしょう。騎士領近くでの明確な軍事行動。援軍は当然予測済み。こちらの規模は知られているでしょうから、どの位の数で来るかも予想済み。
最初に村が襲われた時に生き残りが逃げて来られたのは、襲撃を知らせるため。
素早く次の村を襲ったのと数を少なく見せたのは、前衛を急がせて町の防衛に駆けつけさせるため。
そうなれば、もう自分たちと町との間に偵察を割く余裕もない。
「はあ……」
一つ溜息をつくと、
――あたしなら町は見捨てる。
『大勢の人が住んでいるんだよ!?』
――その程度の犠牲で騎士団が健在なら安い物だわ。
『安い物って……』
「遠くに炎を見ながら、我らもまた包囲されていました。敵の数は騎兵だけで4000人を超える大集団。応戦は致しましたが、多勢に無勢。しかも相手は――」
「
「何故それを!」
「リリゼットの町には
「そこまで把握していらっしゃったのですか!?」
「当然でしょう。後はもう考えなくても分かる事よ。貴方の町を救おうとした想いは認めましょう。その行動を咎める者もいないでしょう。ですからわたくしが言います。貴方は策を見抜けず、満足な兵も準備せずに出陣し、いたずらに兵を死なせ、結果として何も得ることは出来ませんでした。この罪は、万死に値します」
『ちょっとちょっとちょっとちょっと!』
「誠にその通りでございます。この失態の責任は全て私の所見の甘さが原因。サリウス殿をはじめ、兵たちは良く戦いました。なにとぞ、全ての責はこのわたくしめに」
「当然よ。この敗戦の責、他に誰が負うというの。この失態は言うまでもなく貴公一人の責任です。正式な処罰は後に言い渡します」
「ありがたき、幸せに存じまする」
『ねえ聞いてよ、酷くない!? 失敗をしない人間なんていないわ! たった1度の失敗で処断なんてしていたら――あ』
――もう、死んでいるわ。
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