第14話 急報
中から外の様子は分からないけれど、数頭の馬のいななきが聞こえる。
外では色々話しているのだろうけど、さすがに聞こえないか。
幽体離脱とかできればいいんだけどな。
というか、出来るようにならないと。
今のままでは、どうやってもこの子は破滅する。
もちろん高難易度ゲーム。何もしなければクラウシェラが絶大な権力を手にする未来の可能性も高そう。
今の世界は、ゲームオーバーになったからといって消滅しないのだものね。
でもその場合も、やっぱり破滅が待っている。
プレイヤーが動かさないヒロインの力は未知数。有能か無能かもわからない。
それにヒロインを退けたとしても、その時点で彼女に残るのは強大な権力と引き換えに得た山盛りの敵。
先は長くないのよね。
よし、早く逃げよう。頑張ろう!
そんな決意を固めた時、兵士の一人が走ってやって来た。
鎧や武器の音で大急ぎで走って来たのは分かるけど、それでもちゃんとノックするのはさすが。
「入りなさい」
「お食事中失礼いたします!」
「見てから話しなさい。もうとっくに終わっているわ。それで、そこまで慌てて何が有ったの?」
「はっ! ただ今、クラウシェラ様に面会を求める者が訪ねてまいりました。いかがいたしましょうか?」
「面会?」
額の血管がピクリと動く。
でもクラウシェラが何か言うよりも先に言葉を発したのはオーキスであった。
「その言い草であれば、クラウシェラ様より身分は低いのであろう。なぜ謁見と言わぬ!」
「いいわ、オーキス。それで、訪ねて来たのは?」
あたしは聞かなくても分かるけど、黙っていよう。
予言みたいに話した方が箔は付きそうだけど、その後の展開がね。
「ケルジオス・ギ・マスチン騎士候様と、
「負傷者がいる……か。 直ちに通しなさい」
「あの神童サリウスでしょうか?」
「
うわ、怪我人の心配とか欠片も浮かばなかった。ただ物凄い怒りが膨れ上がったわね。
それに渦巻く無数の思考。大量のメモが、渦を巻いている様に次々と湧き出している。
これは様々な可能性と、それに対する解決策。
今なら分かるけど、公爵令嬢ともなれば迂闊な事を口には出来ないのよね。
2年間も一緒に帝王学を学べば、あたしだってそれなりに身に付くわ。
あれ? でも何だろう。遅すぎる? 今頃? うーん……。
暫くすると、二人の男性――というより大人と子供が兵士に連れられて入って来た。
同時に思考のメモがパッと消えてしまう。冷静になったのね。
もうちょっと読みたかったけど仕方ないか。
男は長身の痩せ型だけど、しっかりと鍛えられている事は見ただけで分かる。
顔つきもそうだけと、動きもね。素人のあたしでも見分けがつくのだから相当なものね。
歳は40くらい? ゲームには登場しなかったから……うーん、あまり考えたくはないわ。
肩から胸、腹部までと足先から脛までを覆う鉄の鎧。
兜は脇に抱えているわ。
無骨だけど、実用性は高そう。それに激しい戦いがあったのか、傷だらけね。
それにゲームでも見た紋章が鎧の中央にある。
背中にはクラウシェラに会うから? 他と違って、かなり分厚くて、汚れ一つない新しいマントを羽織っているのがちょっと違和感かな。
彼が公爵領の一部、ペルム騎士領を治めるケルジオス・ギ・マスチン騎士候で間違いなさそうね。
貴族は治める土地をファミリーネームにするけど、領地持ちの騎士――あ、普通の騎士じゃなく、騎士候って呼ばれている人たちね。その人たちはあくまでその領地を治める貴族の配下だから、領地名は名乗らないの。
大抵は1代限りって事も理由ね。
それだけに自力で功績を立ててその身分になった訳だから、相当な猛者なのは間違いないわ。
だけどその左腕にはシャフトを切り取った矢が2本。足にも一か所ある。
矢の刺さった左腕は垂れ下がり、動かせそうにない。歩行も少し危なっかしいわ。
そしてその後ろに控えるのが、神童と呼ばれるサリウス・ピートマスター。
ゲームに登場した時は、クラウシェラやヒロインよりも1つ若い14歳だった。だから今はまだ11歳ね。
髪は短いけど、目が隠れるほど前髪は長い。
あたしは知っているけど、両目とも鷹の目って言われたちょっと変わった瞳をしているのよね。
白目が白じゃなくて、鷹のように色がついているの。黄色じゃなくて淡いブルーだけど。
さすがにファンタジー世界でも、こういったのは少し珍しいのよ。
でも色違いなのに”鷹の目”って言わるのには理由があるの。
それは彼が
その5武行典っていうのは――、
「この度は、お目通りが叶い感謝に絶えません。既に部下や民間人の治療も――」
「跪く必要はありません! そうしたら、貴方はもう立ち上がれないでしょう。その前に、用件を言いなさい」
跪いて礼をしようとした騎士候を、いきなり一喝した。
「これは失礼いたしました。では状況を説明いたします」
まあサリウスはさすがに跪いたけど。
『ちょっとちょっと、見るからに重症だよ。説明なら後ろのサリウスでも出来るでしょう? 今は治療しないと』
――黙っていなさい。これは今しかできない大切な事なのよ
『なら見ているけど、うーん』
――それに音に聞こえた5武行典の一人とはいえ、彼の言葉に公爵家を動かす力は無いの。
まあその点は色々あるのかもしれないけど……。
『えー。どう考えても普通の状況じゃないでしょう? 誰から聞いたって良いじゃない。言った人で結果が変わるの?』
――それはこれから聞く内容次第よ。
「それでは単刀直入にお伝えいたします。カッセ、ヘイルベル、リリゼットがアゾール王国の残党軍の襲撃より壊滅いたしました」
「チッ!」
凄くはっきりと舌打ちしたなー。
でも、予想の中にはあったわね。
ううん、あったというか、もう分かっているって程に心の中では断定していた。
――あれほど注意していたのに。油断だったわ。
『どうかしたの?』
――なんでもないわ。
そう言いながらも、顔には口惜しさがありありと出ていた。
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