第11話 運命を決める説得
とにかく今は、彼女の背中を押さないと。
大丈夫。もう心の天秤は完全に生かす方に傾いている。
音はもう一押しね。
『大丈夫。貴方は一度噛まれているのでしょう? ならその可能性を排除すれば良いのよ』
「排除?」
『思い出して。貴方はどうして彼に殺されたの?』
「……それは」
ベッドの天布を仰ぎ見ながら思慮にふける。
そうよね。確かに記憶があるとしても、重なってしまった記憶。
どっからどう繋がっているかを正確に把握するのは並大抵の事じゃないわ。
あたしも全ルートを1から全部思い出せと言われても――あ、大体思い出せるわ。
でもそれはラストにモノローグが流れるからであって、彼女には要約してくれる人はいない。
全部自分の頭の中から絞り出さないといけないのよね。
「確かそう、パーティーの帰りだった。誰だったかしら。とにかく……そう、右足を怪我をして満足に歩けなかったから、見苦しかったので馬車に残したのよね」
――そうそう。その通り! 因みに怪我をさせたのは名もなき兵士の一人。
いやー、矢で射るように誘導するの、本当に大変だったわ。
もちろんヒロインであるあたしがそんな事を直接提案したりしないわよ。
全然違う話だけど、色々な人を迂回させていくうちに、最後にその結果に持っていく。うん、最高だったわ。
あっとダメダメ。ここはもう現実。ゲームの不謹慎さは忘れなくっちゃ。
「そしてパーティーを終えて馬車に戻ったら外にオーキスと侍女が待機していて、乗り込んだところを……そう、後ろから首を刎ねられたんだったわ。空中で回転する時に確かに見たのよ、剣を振り終わった奴と、体から噴き出しているわたくしの赤い血を」
――惜しい、侍女はもう殺されていました。因みに御者もね。
そこにいたのはオーキスだけよ。
でもここは無理もないわね。パーティーで一服盛るような流れを作ったは勿論あたし。
正常な判断力はかなり失われていたはず!
それにオーキスもね。
あの時の彼は、忠実に主君を守ったと心の中では思っていたわ。
薬でそう思い込まされているなんて知らないで。
何て策士なあたし! ってー、これじゃあたしが悪役じゃないの!
違うのよ、あれはあれで正しかったの。
本来のルートだと、彼女はそのパーティーで隣接するジュナイト男爵領のフルレス村を襲撃させる決定をするはずだったのよね。
理由は、この少し前に若くして領主となったジュナイト男爵がヒロイン派だったので、挑発するためね。
何というか、もうやりたい放題。
そしてこのパーティーに集まっていた騎士団が集めた4000人の兵が、1月後に牧畜しか取り柄の無い僅か300人の村を一夜にして全滅させる。
これは数あるイベントの中でも中盤にくる山場の一つで、ほぼ確定で発生するの。
でもやり方によっては阻止できるのよ。
当然、この後はもうハッピーエンドよ。
この時点でクラウシェラは16歳になったばかりの頃。
ゲームとしても、まだ中盤に入ったばかりだわ。
なのに無茶苦茶な高難易度とはいえ、やろうと思えばできてしまうのってすごくない?
自由度の高さがインフィニティ・ロマンチックの凄さなのよねー。
因みにゲームでは命令したクラウシェラが失われた事で計画は消滅。
元々この計画は父親からも良く思われてはいなかった事もあって、それ自体がもみ消されたわ。
そしてそこから男爵の活躍もあって領地が拡大。
ヒロインは無事男爵と結ばれるのよねー。
あ、これは蛇足だったわ。
「やっぱり殺す!」
思い出にふけっている間に、物騒さがパワーアップ中。
まあ鮮明に思い出せばそうなるわよねー。
『まあ落ち着いて。その時、彼の様子はおかしくなかった? そもそもどうしてパーティーに向かったの?』
「それは……たしか男爵領を焼き討ちするためよ。うん、絶対に必要な計画だった。何度も何度もそのパーティーには出席しているわね」
『つまりは、貴方が破滅する原因自体がそのパーティーにあるわけよ。そしてそのうちの1つにたまたまオーキスが関わっていたというだけ。なら簡単よ。そのパーティーに行かなければいいの。でもやっぱりそれだけじゃだめね。何度も出席しているのなら、なぜその1回だけオーキスが牙を剥いたのかしら』
「そんなの……分かるわけないじゃない」
『なら知りましょう。まだ6年も先の話なのよ。その間に対策を練るの。貴方なら出来るわ。伯爵令嬢、クラウシェラ・ローエス・エルダーブルグなのでしょう? しかもただそれだけじゃない。100回の失敗という蓄積があなたにはあるの。なのにたった一人を御すこともできないの? 100回の失敗は、そこまで貴方を臆病にしたの!』
「な、なんですって! このわたくしが臆病? 一人すら御せない? 何を馬鹿な事を言っているの!」
そうだわ! わたくしには、100回の失敗という大きな経験がある。
考えなさい、クラウシェラ。これからの流れを。
わたくしは15歳の終わりごろから破滅に襲われ始め、どれ程頑張っても18歳には届かない。
でもそれを知っている。
そうよ、今更の話だったわ。パーティーのシーンを何度も思い出している内に確信した。
今まで何を考えていたのかしら。たった一つのシーンだけを切り抜いて思い出して何になるの。
流れで考えなさい、わたくし。
これからどうやって破滅を防いでいくか、しっかりと考えながら生きるのよ。
――うんうん、良い話だなー。
完璧とは言わないけど、クラウシェラの前向きな想いが伝わってくる。
やっぱり何かを決意した人って、それだけで魅力を感じるわ。
まあ、破滅させたのがあたしじゃ無ければもっと感動したんだけどなー。
そういえば
もし出会ったら気があったりするのかしら……無理ね。どことなく水と油な気がする。
「貴方にもしっかりと手伝ってもらいますからね! わたくしの運命を変えたいのであれば、しっかりと働きなさい!」
『は、はい!』
「ぎっ!」
『はう!』
二人の頭に激痛が走る。
――やっぱり大きな声を出しちゃだめだねー。
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