第三幕ー57
「死んだわよ……あなたの奥さん。私が、殺したの」
薄暗い地下室に綾芽の生気のない声が吸い込まれていった。。
「そうか……」
スマートフォン越しの悠介の声は無機質だった。
「それだけ? 悠介は、私を憎んだりしないの? 同情からの結婚だったとはいえ、四年間、あなたの妻だった女なのよ? 悲しくはないの?」
「何を今更! 元々そういう『脚本』だっただろう? オマエの方こそ、何を今更悲しんでいるんだよ! 清花に情でも沸いたのか?」
「まさか……」
「それなら、そんな偽善者ぶったこと、二度と言うなっ!」
「わかったわ」
「それで、清花の遺体はどう処分するつもりだ? バラして、何処か遠くへ捨てに行くか?」
「ちょっと! そんな物騒なこと言わないでよ! 私が、そんな野蛮なことするわけないでしょう?」
「綾芽が厭なら、俺がひとりでやるよ」
「……するわ」
「えっ? 聞こえねえよっ!」
「私、警察に連絡するわ。幼馴染を殺しました、って」
「何バカなこと言ってんだよっ! 俺たち、いったい、何のために、清花を消したんだよ?ふたりで幸せに生きていくためじゃないのかよっ?」
「無理よ。ミヤマは逃げたし、しつこい芸能リポーターも私のことを嗅ぎまわってる。発覚するのも時間の問題よ」
「なら、いっそ、海外へ逃げよう! 見知らぬ地で、誰にもかかわらず、ふたりだけで生きて行こう!」
「ありがとう……でも、やっぱり、無理よ。お願い。聞き分けて」
「オマエは、また、あの時みたいに、清花に絆されて、俺を見捨てるのか?」
「お願いっ! もう……これ以上、何も言わないで」
綾芽の目からとめどなく涙が零れ、ふたりの間に長い沈黙が続いた。
「わかった。俺、今からそっちへ行くよ。元々、この話を綾芽に持ち掛けたのは俺だからな」
「どっちが持ち掛けたなんて問題じゃないのよっ! 私は、私の意志で、清花を殺したのっ! 私が殺したのよっ!」
「綾芽……まさか、ひとりで罪を被るつもりじゃないだろうな? そんなこと、俺は絶対に赦さないぞ!」
「まさか……あなた、私のことを買い被り過ぎよ。私を聖女か何かだと思ってるの? 私はただの殺人鬼よ。ねえ、悠介、今から私が話す作戦をよおく頭に叩き込んで! 一言一句も聞き漏らしたら、だめよ」
「わかった」
「約束よ?」
「ああ、死んでも約束は守る」
通話終了後、悠介と綾芽は、それぞれのスマートフォンを破壊した。
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