第三幕ー53
「清花さん、正気に戻ったのであれば、真剣に聞いてください。海外出張中の綾芽さんが仕事の予定を切り上げて帰国するそうです。早ければ明朝。もうあまり時間はありません。私は大智を連れて、どこか遠くへ逃げます。これ以上、貴方たちに関わることは危険だと判断したからです。私は兎も角、大智のことは死んでも守り抜かなければなりません。大智は私の幼馴染の忘れ形見ですから。だから、これで、清花さんと会うのは最期です」
「えっ? どういうことですか? 綾芽が緊急帰国するほどの何かが起こっているのですか?」
「はい。貴方のお母さまが、あなたの失踪届を警察に出しました」
「えっ? 母がですか? どうして? 悠介が失業してからは、私も悠介も、実家とは疎遠です。元々私の家も悠介の家も環境が良くない家庭でしたから。母が、私と連絡が取れないからと言って、失踪届を出すとは考えにくいのですが」
「私も詳しいことはわからないのですが、貴方が勤務していたネイルスクールの、緑川さんという社員の方が、貴方が突然病気で会社をお辞めになってしまったことを不審に思い、綾芽さんの周囲をいろいろと嗅ぎまわって、貴方と綾芽さんの関係に辿り着いたそうです。緑川さんは綾芽さんの存在を良く思っておらず、世間の彼女に対する評判を落とすことを企んでいたようですね。緑川さんが、清花さんのお母さまに失踪届を提出した方がいいと忠告したそうです。そして、そのことを嗅ぎ付けたフリーの芸能記者が綾芽さんを執拗に付け回しているようなのです。窮地に立たされた綾芽さんは何をしでかすかわからない狂気を秘めていると思います。貴方、逃げた方がいい。殺されるかもしれません」
「逃げるって……どうやって?」
「逃げるかここに留まるか、その判断は貴方にお任せします。この部屋の内側のドアの暗証番号は『九一四二』です。もう時間がありません。私は、この地下室から地上に繋がっている部屋にあるモニターをすべて破壊していかなければなりませんので」
そう言って、ミヤマは清花に背を向けた。
「あっ、そうそう! 最期にご忠告! 貴方、ここから無事逃げおおせることができたら、他人に依存するのをやめた方がいい。ちゃんと、自分の力で新しい道をこじ開けるのです!健闘を祈ります」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます