第三幕ー42

 次に投影されたのは、高校生の清花と綾芽だった。喫茶店で向かい合うふたりの間には不穏な空気が漂っていた。小太りのウェイトレスが運んできたアイスティーに、ステンレス製のシロップポットに入っていたガムシロップを一気に注いだ。味覚障害で「甘味」を感じることができない清花にとって、その行為は日常的なことだった。それを見ていた綾芽が、

「そんなにガムシロ入れたら、紅茶の風味無くなっちゃわない?」

と驚いた顔をして訊いてきたので、

「私、『解離性味覚障害』なんだ。味覚障害にもいろいろあるの。私の場合は『甘味』だけを感じとることができないの。だから、これだけガムシロ入れてもまだ甘さを感じないの」 と、清花はぶっきらぼうに答えた。


 更に上映会は続く。次に投影されたのは、綾芽の自宅に九年ぶりに招かれた日のふたりだった。アイスティーをテーブルの上に置いた綾芽が「ガムシロ、入れるわよね?」と訊いてきた。ミニトレイに乗せられたポーションタイプのガムシロップには客人一人に出すのには多過ぎるガムシロップが並べられていた。そして、昨夜も当然のように大量のガムシロップが並べられていた。三人の中で、アイスティーにガムシロップを注いだのは清花だけだった。


「ああ! やられた!」

 思わず、清花は叫んだ。

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