第三幕ー40『第九場』

「二人とも、お疲れのところ、私のわがままで呼び出しちゃってごめんね」

 余程疲れていたのか、綾芽がパーティー会場で身に纏っていたルビーのようなオフショルダーのカクテルドレスが脱ぎっぱなしの形でダークブラウンのソファの上に無造作に置かれていた。

「今日は、竜司さんと大智くんは居ないの?」

「ええ。今日は、きぬたの主人の実家に居るわ。お義父さんとお義母さんには本当にお世話になりっぱなし。こういう日でもなきゃ、家のことサボって、気の置けないお友達とお喋りすることなんてできないもの。だから、ふたりとも気遣わないで寛いでね」

「なあ、綾芽、この部屋、めっちゃ暑くない? 清花も暑くないの? それとも、私がデブだから暑いと感じるだけ?」

 美咲が、赤く火照った顔をしながら言った。綾芽はエアコンの設定温度を確認して「あら、やだ」と言って照れ臭そうにぺろっと舌を出した。

「ごめんね。設定温度三十度になってたわ。どうりで暑い筈ね。冷たい飲み物の方がいいわよね?」

「そうね。こんなサウナ部屋でホットドリンクとか飲みたくないわ」

 と言って、美咲が笑った。三人分のアイスティーとポーションタイプのガムシロップをリビングテーブルに置きながら、

「私、ああいう大仰なパーティーって苦手なのよね」

と、綾芽が言った。

「そうなの? 意外だわ。綾芽、すごく場に馴染んでいるように見えたから」

 清花が、アイスティーにガムシロップを次々と注ぎながら言った。

「何事もね、経験を重ねれば慣れるものなのよ」

 綾芽が愚痴を吐くなんて珍しいなと思いながら、清花は話を聞いていた。室温と疲れの所為か、突然睡魔が清花を襲った。意識が朦朧として、綾芽と美咲の話が遠くの方から聴こえてきた。頭がくらくらして瞼が重く垂れさがってきた。最後に清花の視界に残ったのは、阿佐美高校の入学式の時に、悠介と綾芽と清花の三人で撮った入学式の写真だった。

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