第三幕ー31『第七場』
悠介が、綾芽と一緒に高級タワーマンションに暮らすようになってから、三カ月ほどの時が過ぎた。知る人が見ればすぐにわかる仕立ての良いオーダースーツは、悠介の体のラインにフィットしていた。悠介がこのマンションに越して来た頃は、不審者を見るような目で見ていたフロントコンシェルジュとも自然に挨拶を交わせるようになった。二十三階のスイートホームに辿り着くと、パステルフラワーのエプロンをつけた綾芽が、キッチンで夕食の準備をしていた。
「あっ、おかえりなさい」
鍋の火を止め、綾芽が悠介の方へ駆け寄りキスをした。外気で冷たくなった悠介の唇を温めるように、綾芽がやわらかな唇を押し当ててきた。ずっとずっと愛し続けてきた女との甘い蜜のような時間は悠介にとって至福のひとときだった。
「どうした? オマエの方が帰り早いなんて珍しいな」
「ええ。ちょっと体が怠くて。早めに帰らせてもらったのよ」
「おい、また、無理してるんじゃないのか?」
中二の時、綾芽が、生徒会会長選挙の立会演説会の場で倒れたことを思い出した悠介が心配そうに、綾芽のおでこにおでこをくっつけた。
「熱は、なさそうだな」
「ええ、大丈夫よ。ちょっと疲れが溜まってるだけなの。心配してくれてありがとう。お腹すいたでしょ? もうすぐできるから」
再びキッチンに向かおうとする綾芽を、悠介は後ろから抱きしめ、
「メシは後で俺が作るから、とりあえず、寝ろ!」
そう言って、悠介は綾芽をそのまま抱き抱えて寝室のベッドへと横たわらせた。
「隣に居て。大切な話があるのよ」
「わかった」
悠介はスーツから部屋着へと手早く着替えを済ませ、ベッドに潜り込んだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます