第三幕ー26

「あっ! 違うのっ! 警戒しないで。確かに、私は『綾芽さん派』だし、綾芽さんのことは尊敬してるけど、清花が綾芽さんと親しい友達だって聞いても、皆に言いふらしたり、嫉妬したり、意地悪したりしないから! って言っても簡単には信用してもらえなさそうだね。清花、用心深そうだもの。そしたら、私の秘密から先に話すわ。それなら、イーブンやろ?」

 清花は大きく首を縦に振った。

「実は、私も、綾芽さんのコネで入社したんだ。このことは、今、スクールにいるスタッフは誰も知らないんよ。緑川もね。清花のそのネイルアートって、綾芽さんの自宅の『プライベート ネイルサロン ルーム』でやってもらった?」

「はい。たぶん、そうです。綾芽さんのご自宅の一室で。リクライニングチェアみたいな椅子とかあって、その他にもネイルアートに必要なものはすべて揃っているような、まるでネイルサロンみたいな部屋でした」

「うん。その部屋で間違いないよ。紫先生は都内のネイルサロンで実務経験を積んだ後、成城のご自宅にネイルサロンをオープンされたの。その当時使っていたのが、あの部屋。綾芽さんがご結婚されて、紫先生と旦那さんは港区のマンションに転居。その後、あの部屋は綾芽さんのネイルアートの練習の場でもあり、綾芽さんがお気に入りの人だけにネイルアートを施すための『プライベート ネイルサロン ルーム』になってるの。実は、私もたまにあの部屋でネイルをしてもらってるんだけど、このことが、緑川たちや、綾芽さんの熱狂的な信者の子たちにバレたらどうなると思う?」

「かなりの嫌がらせをされることになるんでしょうね」

「そうよ。女の嫉妬は怖いからねえ。だから、あの職場で、綾芽さんに良くしてもらってるみたいなことは絶対口に出したらダメだよ!」

「でも、私、緑川さんに、綾芽さんにネイルしてもらったって言っちゃいましたけど……どうしたらいいんでしょう?」

 美咲は腕を組みながら、何か策を練っているようだった。

「言っちまったことは、もうどうしようもないね。ただ、不幸中の幸いで、清花は、綾芽さんに個人的にネイルをしてもらった、とまでは喋ってなかったよね?」

「はい。緑川さんが怖くて、声が出なかったんです」

「そしたら、清花も、綾芽さんのファンっていうことにして、半年前から予約してたってことにしなよ。実際、綾芽さん指名で予約取るにはそれくらいはかかるからさ。飽くまで一般の客としてネイルをしてもらったんだってことを皆にはっきり伝えなよ。そうしたら、被害は最小限で済むと思うから」

「なるほど。そうしたら、少なくとも、広報の若い方たちや綾芽さんを強く慕っている方たちは私に対する見方を変えてくれるかもしれませんね。さすがです。ありがとうございます」

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