第三場ー18

「また、こうして訪ねて来てくれてありがとう、清花。とても嬉しいわ」

 綾芽がアイスティーとガムシロップを清花の前にことりと置いた。風に煽られゆらゆらと揺蕩うカーテンのように、ガムシロップがアイスティーに溶け込んでいった。

「綾芽のお陰で、借金を完済することができたわ。ありがとう。言葉では言い表せないくらい感謝しているの」

「気にしないで。幸いお金には困っていないの。それより、悠介がまた借金を増やしていないかが心配だわ。悠介には、家を飛び出してから一度も会っていないの?」

「ええ。もし会ったら、私、殺されるかもしれない」

「そう……もう、昔の悠介とは別人になってしまったのね」

 綾芽は寂しそうな顔をした。

「それで、今日の相談っていうのは?」

 清花は、重い口を開いた。

「借金を返済してから、私、アパートに引っ越して転職活動をしているんだけど。すごく苦戦していて、本当に情けない話なんだけど、家賃滞納してて……早急に仕事を決めないと追い出されてしまうの。図々しいお願いだというのは重々承知しているのだけど、綾芽のお友達や知人で社員を募集しているところがあったら紹介してほしくて……本当、ごめんなさい。もう、どうしていいか分からなくなってしまって」

 骨ばった両手で顔を覆った清花の長袖のシャツが捲れあがって、自傷跡とその他にもいろんな種類の傷跡が露わになった。

「紹介してあげられなくもないんだけど、清花、受付事務とかできる? おそらく、私が知っている清花の性格からして、人と接する時間が多い仕事はあまり得意じゃないと思っているのだけど、どう?」

「それは、綾芽の言う通りなんだけど……私を雇ってくれる会社があるのなら、得意とか不得意とか我儘言ってられないわっ! なんだってやるわっ!」

「そう。清花の意気込みは伝わってきたわ。そうしたら、清花、私の母が経営している『北原紫ネイルスクール』で働いてみない? 先月、受付事務の子が一人退職してしまって、今、受付は一人で回しているのよ。今、彼女にかかる負担が大きくて、早急に社員を雇い入れたいと思っていたところなの」

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