第三場ー16

 清花は、早々に住む家を決めた。連帯保証人をつけることができず不動産会社との交渉は難航したが、家賃保証会社を利用することで何とか賃貸契約を結ぶことができた。築三十五年。四畳半のワンルームマンションの三階。一応、専用のトイレもユニットバスもついている。ネットカフェ難民生活を卒業し、狭いながらも自由になれる城を持てたことで、少しだけ、新しい人生を歩み始めているような、そんな清々しい気持ちになった。しかし、錆びついていた人生の歯車に少量の油をさしたところで、そう簡単に歯車が動き始める筈もなく、転職活動は難航した。生来の内向的な性格から、清花は面接試験というものが大の苦手だった。極度の緊張感や不安から、頭の中が真っ白になってしまい、面接官が何かを訊いてくる度に心臓が破裂しそうになってしまうからだ。毎日のように届く企業からの不採用通知と通帳の残高を交互に見て、清花は深いため息を吐いた。どんなにちまちま節約ライフを送ったところで収入が見込めない以上、金は減っていく一方だ。繋ぎでアルバイトでもやろうかとも思ったが、それでは、前に進めないような気がした。そうこうしているうちに季節は夏から初秋へと移り変わり、とうとう、家賃保証会社から滞納の連絡がきてしまった。悠介が住むボロアパートに戻れば命の保証はない。そもそも、悠介も家賃滞納で追い出されているのではないか? 実家に戻るわけにもいかない。清花は悠介との夫婦生活の惨状を一切両親に話していないし、話したところで救いの手を差し伸べてくれる親でないことも重々承知していた。


『いいのよ。もう、昔の蟠りは捨てましょう! 困ったことがあったら、いつでも頼ってくれていいのよ』


 ふと、清花の脳裏に綾芽の言葉が浮かんだ。純白の衣服を身に纏った彼女は、はたして、本当に聖女なのだろうか? 綾芽に対する疑念が清花の頭の中からすべて消えたわけではない。それでも、清花は彼女に縋るしかなかったのだ。たとえ、彼女が悪魔だったとしても。

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