第三幕ー15『第三場』
綾芽から借りたお金で借金を完済した清花は安堵のため息を漏らした。無彩色の線画みたいだった街の風景は彩色が施されたように息を吹き返した。清花の手元には、二十万ちょっとの現金があった。ちゃんとした仕事に就くためには、ネットカフェ難民を続けるわけにはいかない。住所不定の得体の知れない女を正社員で雇ってくれるような、まっとうな会社はないだろう。兎に角、早く定職に就いて綾芽からの借金を返済し、これまでの人生をリセットして新たに人生をやり直したかった。いつものように、朝、ドリンクバーに行くと、馴染みのおじさんと行き会った。
「おはよう、お嬢さん。なにかいいことでもあったかな?」
おじさんは、カップにコーヒーを注ぎながら清花に訊ねてきた。
「そう見えますか?」
「ああ、いつもより表情が生き生きとしてるよ」
「ありがとうございます。いいことというほどではありませんが、少しだけ生き続ける希望が出てきました」
「そりゃあ、”いいこと”じゃないか。まだ若えんだからさ、気持ち次第で何でもできらあ」
そう言って、おじさんは嬉しそうに笑った。
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