第三幕ー8

「妻の『さやかさん』ですか?」

「ええ。実は、清花は中二の時に自殺未遂をやらかしてまして、当時の俺はその理由を受験勉強や、家庭内でのストレスだと聞かされていて、すっかり信用していたのですが、本当の理由を知ったのは高二の時でした。俺は、正式に『彼女』に告白をしたのですが、清花を理由に振られてしまいました。俺は彼女に裏切られたような気持ちになって彼女を問い質しました。その時初めて、清花が俺のことを好きで、中二の時の自殺未遂の本当の理由は、清花が、俺と彼女の仲に嫉妬してのことだと知りました。彼女は幼馴染の清花を裏切れないと言って、その日を最後に俺たちの前から忽然と姿を消してしまいました。自棄になっていた俺は清花を受け入れ今に至るのですが、俺は未だに『彼女』のことを愛しているんです」

 悠介は心の澱を吐き出すように一気に話すと、ぐい吞みになみなみと注がれた冷酒を呑み干した。

 悠介の話を聞き終えた宮間は、腕組みをして虚空をみつめながら何かを思案しているようだった。そして、言葉を紡いだ。

「その『彼女』とは、高二の時以来、完全に関係が切れているのですか? 今も所在がわからない感じですか?」

 宮間が訊ねると、悠介は、バツが悪そうな表情をして、

「実は、四年ほど前、大学のダチに誘われて行った合コンで偶然『彼女』と再会して……まあ、所謂、愛人なんすけど」

「奥さんと別れて、彼女と再婚する気持ちはないのですか?」

「それは、もちろん、あります! 二人が一緒になるためには……」

「奥さんが邪魔なわけですよね?」

「まあ、ぶっちゃけ、そういうことになります」

「じゃあ、奥さんを『消す』しかないですね?」

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