第二幕ー40『追憶6』
「あーあ。人が気持ち良く酔ってるのに、なんなの? あの女の間の悪さ。ここまでくると悪魔的なんだけど」
少し冷静さを取り戻した私は、清花からのツイッターのフォローリクエストに対し、どう対応すべきか考えていた。この女に関わると碌なことがないことは重々分かっていた。無視するのがいちばんだ。今の私は最高に輝いている。この不幸製造マシーンみたいな女に関わって、苦労して手に入れた富や名声、これから増々輝くであろう未来を自らの手で葬り去るなんて馬鹿げている。頭では良く分かっていた。それでも、この九年間の地獄のような苦しみを思い返すと、腹の虫が収まらなかった。この九年間、私はあの時のことを忘れたことがない。繰り返されるフラッシュバックに苦しみ、眠れぬ夜を過ごし、私は薬漬けの生活を余儀なくされた。眠れぬ長い夜、私は、何十、何百もの復讐パターンを考えた。最初の頃は、呪い殺すとか非現実的で実現不可能な方法ばかり考えていたが、途中から私は「復讐劇」の脚本を書くことに愉しさを見出すようになり、何作かは、私がその気になれば、実行可能な「作品」となった。舞台俳優の当てもある。
『綾芽って、もうちょっとクールかと思ってたけど、そうでもないみたいね。ちょっと安心したわ。その演技力じゃ女優にはなれないね』
清花が放った侮辱の言葉を思い出し、私は決心した。
「なってやるわよ。やるからには、主演女優賞取ってレッドカーペット歩いてやるから」
私は、清花のツイッターのフォローリクエストを承認し、DMを送り、清花を自宅に招き入れることに成功した。用心深いあの女のことだ。恨み言の一言も書かれていない私のDMに違和感を感じ警戒しているだろう。まずは、その警戒を解くことから始めよう。時計の針は、深夜二時四十二分を指し示していた。日本は午前十一時四十二分。私は、スマートフォンを手に取り、男に発信した。
「どうした?」男は気怠そうな声を放った。
「あの女、私の家に来るわよ。七月二十三日。『ミヤマさん』に例の件、至急お願いできる?」
「わかった。とりあえず、ガキの方だけ用意できればいいか?」
「そうね。とりあえず、今回はそれでいいわ。旦那は海外出張中ってことにしておくから。あっ! でも、途中で『ミヤマさん』に私のスマホに連絡入れるように言ってもらえる? あの女、妙に勘が良いところあるし、私のこと警戒していると思うの。念のために、ね?」
「了解!」
こうして、私の人生を賭けた「復讐劇」の幕は切って落とされた。
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