第二幕ー36

「その言い方は、ちょっと酷いんじゃない?」

「酷いのはどっちよ? ねえ、今、悠介とはどんな感じなの? もう、したの?」

 目の前にいる女は、私が知っている清花とは別人のようだった。

「何もないわよ! ただの幼馴染よっ!」

 人をおちょくるような清花の態度に苛々した私は、思わず声を荒げた。

「そうなんだあ。じゃあさ、きっぱり断ってよね?」

「何をよ?」

「悠介、地区大会一位でインターハイ出場決めたら、綾芽に告白するんだってさ。アイツ、ほんっと、鈍感な男だよね。もう、ずっと、ずっと、子どもの頃から、こんなに大好きなのにさあ、どうして私の気持ちに気付かないんだろう。おかしいよ、アイツ、ほんと、頭おかしいよ……」

 そう言って、清花は今度はめそめそ泣き出した。

「ねえ、どうして、アンタみたいなお姫様がわざわざ庶民のレベルに合わせた人生送ってるのよ? ねえ、どうして『白亜の城』なんかに越して来たのよ? どうして、私から王子様を取り上げるのよっ? アンタさえいなければ、アンタさえ……」

 ああ、そっか。私たちは出逢っちゃいけなかったんだ。私たちは運命に弄ばれ、どんなに遠く離れても鎖で手繰り寄せられ、いがみ合い、いとおしみ合い、そして死ぬまで、お互いの存在を必要とするのだろう。

「わかった。私は、悠介に告白されても断るよ。約束する」

 そう言って、私は店を後にした。雑居ビルの前には先ほどのインド料理店の店員がまだビラを配っていた。私は、彼からビラを受け取る代わりに、名も知らないアマチュアミュージシャンのCDを手渡した。灰色の空から涙みたいな薄汚い雨が降ってきた。

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