第二幕ー32


 まるで、嵐の前の静けさのようだった。凪いだ海が闇に照らされせせら嗤っているみたいだった。

 私たちは高校二年に進級した。文系大学進学を目指す私と清花は引き続き同じクラスになったが、清花は今まで以上に群れることを嫌い単独行動を好んだため、私は、ほとんど清花と話をする機会がなかった。一方で、悠介と私は部活動にのめり込んでいた。阿佐美高校テニス部は、私たちの代に多くのテニス経験者を入部させることに成功し、私たち新二年生は着実に成長し「期待の世代」と呼ばれていた。波に乗ったテニス部は、経験者を含めた多くの新入部員の獲得にも成功し、男子テニス部、女子テニス部ともに、インターハイ出場もあり得るのではないかと噂されていた。清花が身を引いたことで、悠介と私は二人で過ごす時間が増え必然的に二人の仲は親密度を増していったが、二人で互いの躰を重ね合う時に、必ずと言っていいほど痛みが走った。ありもしない躰の部位が疼くような、そんな痛みだった。何かが足りない。満たされない。そんな時、いつも私の脳裏に浮かぶのは清花だった。

清花から話があると言われたのは、ゴールデンウイークが明けた頃だった。自ら私たちを避けておいて今更何の話があるのか見当もつかなかった。ただ、それが良い話でないことだけわかった。

「学校では話せない話なの?」

 そう訊くと、清花は、大きく首を縦に振った。彼女の目は真っ赤に充血していた。

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