第二幕ー29『追憶5』

 清花の自殺未遂事件以来、私たちは今まで以上に距離を置いた。車間を詰め過ぎて衝突しないように。悲しい事故を起こさないように。しかし、距離を置けば置くほど、悠介に対する恋慕は色濃くなり、清花に刺された楔を忌々しく思うようになった。三人がまたしても同じ学校に進学したのは、偶然であり必然であった。「都立阿佐美あざみ高等学校」は文武両道の進学校で偏差値もかなり高かった。中学時代、常に上位の成績を維持していた悠介は兎も角、成績が伸び悩んでいた清花までもが合格できたのは奇跡としか言いようがなかった。もしかしたら、清花は、悠介の志望校を聞き出して猛勉強したのかもしれない。私は、あの事件の時、「清花の悩みを聞いてあげて欲しい」などと悠介にお願いしてしまった自分をぶん殴ってやりたかった。

 入学式の日は、四月だというのに風が強く肌寒かった。私たち三人が揃って会話をするのは久しぶりのことで、式を終えた私たちは、まるで、仲の良い幼馴染同士のように笑顔で話をした。そんな私たちの所に、学校側と契約を交わしているというプロのカメラマンが、卒業アルバムで使う写真を撮らせて欲しいと言ってきた。私たちは二つ返事で了承し、そしてこの写真は、私たちの三人が一緒に写る最初で最後の一枚となった。

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