第二幕ー28
「こうして二人で帰るのは久しぶりだな」
悠介は、私の手にそっと触れ絡めた指をそっと離した。清花に対し後ろめたさを感じたのだろう。
「悠介は、清花から何か相談とかされてない?」
「何もねえなあ。二週間前くらいに、たまたま朝一緒になって少し話したけど、志望校決めた? とか、そんな話をしたくれえで後は憶えてねえなあ。晴花ちゃんも今のところ落ち着いてるような口ぶりだったしよ。綾芽の方には何か話いってねえのか?」
「私の方も何もないなあ。あの子、昔から私に対して心を開いていない感じだし。もしかしたら、私、嫌われてるかも」
「そんなことねえよ! 清花、綾芽のこと、美人で性格も良くて羨ましいって言ってたぞ」
悠介は人間の感情に疎いところがある。清花が私について語った言葉を素直に誉め言葉として捉えたのだろう。「羨ましい」という言葉の裏に潜んでいる「妬み嫉み」の感情を読み取ることができないのだ。
「そうかなあ。そうだと嬉しいけど。ねえ、悠介、清花が退院して心が落ち着いたら、清花の悩みとかきいてあげてくれないかなあ?」
「俺は構わないけど、そういう話って、女同士の方が話しやすいんじゃねえのか?」
「もうっ! わかってないなあ」
「何がだよ?」
悠介は、唇を尖らせた。
「女っていう生き物はね、心が弱っている時は同性じゃなくて異性に話を聞いて欲しいものなのよ。反対に、自慢話をしたいときは同性に聞いて欲しいものなの。要するに、見栄っ張りな生き物なのよ」
「そういうもんなのか。くだらねえなあ」
私が、心の中で「Ridiculous!」と呟くのと同時に悠介が言った。
「そうよ。とてもくだらないこと。でもね、そういうふうにしてできちゃってるのよ。『女』って生き物はね。だから、悠介、お願いできる?」
私は、上目遣いで悠介をみつめた。
「わかったよ。綾芽が俺に頼み事するなんて滅多にねえしな。任せておけよ!」
「ありがと、悠介」
本当は、こんなこと悠介に頼みたくなかった。でも、余裕を見せることで、私は、清花に自分の方が優位に立っているということを知らしめたかったのだ。悠介と私は、普通に歩けば十分で辿り着く帰路を牛歩戦術みたいにゆっくりゆっくり歩いた。意味もなく小道に入ってみたり、わざと遠回りしたり。私を家の前まで送り届けた悠介は闇に溶け込むようにして私にキスをし、
「俺たちは『運命共同体』だからな」
と耳元で囁いた。このまま、夜闇が二人だけを呑み込んでくれたらどんなにかいいだろうと思った。
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