第二幕ー26
「あの……無理に仰らなくても大丈夫です。ただ、大切な幼馴染が、本気にしろ本気でないにしろ『死』を願い、どんな方法で実行しようとしたのか……と思ったら、胸が張り裂けそうで……」
私は涙を浮かべ言葉を詰まらせた。悠介が私の肩をぽんぽんと叩いた。
「睡眠薬の過剰摂取と、カッターナイフによる自傷行為だそうだよ。薬は山中さんのお母さんが心療内科で処方されていたものをこっそり使用したらしく致死量には程遠い量だったそうだ。自傷行為の方も幸い傷は浅いとのことだ。ただ、清花さん本人がひどく錯綜していて自宅に帰らせたら同じようなことを繰り返す危険性が高いという医師の判断で、しばらく入院するそうだ」
周囲には私たち四人以外誰も居ないのに、沖田先生は声のトーンを落として言った。私の頭の中でばらけていた幾つかの事柄が瞬時に繋がった。
ああ……楔刺されたわけか。悍ましい女ぁ。清花の悠介に対する異常なまでの執着に私は身震いした。
「幼馴染の二人なら知っていると思うが、山中さんは、とてもおとなしい性格で、クラスでも一人でいることが多く目立たない存在だということだが、特に、クラス内でいじめなどはなかった、ということで間違いありませんか? 三沢先生?」
沖田先生は、先程より強い語調で三沢先生に訊ねた。若い女の教師と言っても、この学校に赴任して一、二年そこらの新米教師ではない。自分が受け持つ生徒の問題から目を背けたいが為に、ただ其処に居てびくびく震えているだけの女に嫌気が差したのだろう。私もこの女教師には苛々した。自分ができないこと、やりたくないことは、弱者を装い全部丸投げ。まるで、清花の将来の姿を見ているような気になった。
「は、はい。そのようなことは、ありません。み、みな、いい子ばかりで、い、いじめなんて、そんな、おそろしいこと、絶対に、あ、ありえませんっ!」
この教師自体が生徒に舐められていじめられているのではないか? と、疑いたくなった。
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