第二幕ー25

 三号館の裏手、連絡通路で繋がれた先に体育館と二階建ての部室棟がある。三号館を出ると、外気が肌を突き刺すように冷たかった。沖田先生と三沢先生の後に着いて歩いていた悠介と私は小声で言葉を交わした。

「清花に何かあったの?」

「俺にもさっぱりわかんね」

 互いに眉を顰めるしかなかった。部室棟二階の西の端の部屋に「絵本部」「手芸部」というプレートが掲げられていた。六畳ほどの部室はパーテーションで区切られていて、部室奥の窓際が絵本部の領域のようだった。三沢先生は暖房のスイッチを入れながら、私たちに、壁際に立て掛けてあった折り畳み式の会議テーブルとパイプ椅子を使うようにと指示を出した。病み上がりの私を気遣って、沖田先生と悠介がセッティングをしてくれた。テーブルを挟んで窓側に先生たち、ドア側に私たちが腰掛けた。自分のキャパシティを超えた事案に直面しているのだろう。三沢先生は終始落ち着きがなく顔面蒼白だった。見兼ねた沖田先生が話を切り出した。

「北原と松永は、四組の山中清花さんと幼馴染なんだそうだね?」

 やはり、清花の話か、と、ため息を零しそうになるのを私はぐっと堪えて答えた。

「はい。私たちは山中さんと幼馴染です。先生、山中さんに何かあったんですか?」

 これ以上焦らされては苛々が増すだけだ。私は単刀直入に訊いた。

「三沢先生、どうですか? 二人に事情を話せますか?」

 沖田先生が三沢先生に訊ねた。寒さの所為なのか精神的なものが原因なのか、はたまたその両方なのかは分からないが、三沢先生は、上と下の歯をカタカタとシバリングさせて、ふるふると頭を横に振った。沖田先生は少し呆れたような表情をし、話を続けた。

「今から話すことは他言無用でお願いしたいのだが、約束できるかい?」

 私も悠介も大きく頷いた。

「昨晩、山中清花さんが自宅で自殺未遂をしたそうだ。ご両親もかなり混乱しているようで、詳しい話は山中さん本人とご家族が少し落ち着いてから伺うことになりそうだが」

「それで、清花は今どんな状態なんですか?」

 沖田先生の話を遮って悠介が身を乗り出して訊いた。清花の身を案じる悠介の姿に私は内心、嫉妬していた。

「大丈夫。命にはまったく別状がないそうだよ」

 その言葉を聞いた悠介の顔に安堵の色が見えた。

「あの……山中さんは、どのようにして自殺未遂を?」

 この問いは清花という女に対する興味本位からだった。私が幼少期から見てきた清花は、気が弱くて、うじうじしていて、それでいて、突然思いもよらないような大胆な行動を取る得体の知れない怖い女だった。その女が自分を消し去るために選んだ手段はどのようなものであったか純粋に知りたかった。この問い掛けに対し答えるべきかどうか沖田先生は逡巡している様子だった。

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