第二幕ー24


 この日の終礼が終わった後、私は沖田先生に職員室に呼び出された。放課後の職員室は賑やかだった。質問に来た生徒に対応する教師、悪さをした生徒を叱責する教師、小テストの準備や採点などの事務作業に没頭する教師、保護者からの電話対応に追われる教師。

「今日は、特に賑やかだなあ。場所替えるかあ」

 沖田先生は、少し白いものが混ざった頭髪を触りながら私に言った。私の体調についての話だけなら場所を替える必要などない。嫌な予感がした。

「お話、長くなるのでしょうか?」

 先生に尋ねると、

「うーん。長くなるかどうかはわからんが、少々センシティブな話でな。他の生徒たちに聞かれると面倒なことになりかねないのだよ」

 と言った。

「病み上がりのところ付き合わせてしまってすまんな」

 そう言って、先生はがしがしと、艶のない髪に手櫛を入れた。

「ちょっと、ここで待っててな。三沢みさわ先生たち呼んでくるから」

 そう言って、私は、職員室扉の入り口付近で待たされた。職員室には煙草と珈琲の匂いが充満していた。きっとこれが大人の匂いなんだろうと思った。私は、この匂いは嫌いではなかった。しかし、職員室に居る教師、生徒、保護者、生きた人間たちの欲望と思念が、埃臭いエアコンの吹き出し口から吐き出される生温かい風に乗って其処彼処に渦巻いているさまには虫唾が走った。三沢という三十路少し手前くらいの、未だに女子大生気分が抜け切っていないような女性教師は二年四組の担任教師だ。二年四組は清花が所属しているクラスだ。これは偶然か? 私の不安は募るばかりだった。沖田先生は、三沢先生と悠介を連れて私の方へと向かって来た。なぜ、悠介が? まさか、昨日、保健室で彼とキスを交わしたことが誰かに目撃されて不純異性交遊だとお叱りを受けるのだろうか?

「待たせたな、北原。三沢先生が顧問をされている『絵本部』の部室を使わせて頂けるそうなので、そこで話そう」

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