第二幕ー21


 ママと話をしたことにより、気持ちは前を向いていた。やる気も漲っていた。幸い、体力もある方だ。私はできる! 生徒会会長に選ばれ、全国模試での成績も上位十パーセント以内、いっそのことトップを狙おうという気力が漲っていた。しかし、体は正直だった。過度の疲労とプレッシャーから、私は、人目を憚り一日に数回嘔吐した。体重も減少し、いつも視界がふわふわとしていた。時は駆け足で過ぎ去り、十二月十一日。決戦の日を迎えた。全校生徒が体育館に集合し、ステージ上の四人の生徒会会長立候補者及び責任者の立会演説会が始まるのを落ち着きのない様子で待っていた。中には、誰が勝つか賭けをしているような不真面目な輩もいたようだ。私の演説は最後だった。二人目の応援演説が始まったあたりで視界がぐにゃりと溶けた。私の責任者を買って出てくれたクラスメイトの真奈まなが気付いて「だいじょうぶ?」と小声で訊いてきた。私は右手の親指と人差し指を繋げてオーケーサインを出した。どの立候補者もやる気に満ち溢れていて人望も厚く、今回の選挙戦は接戦になるだろうことは想定内だった。立候補者の演説が終わるたびに館内が沸き立った。

「では、二年三組の立候補者の北原綾芽さんの責任者の方、応援演説をお願いします!」

 私は、真奈の背中をポンっと軽く押して笑顔で送り出した。真奈の応援演説は館内の生徒たちの心を鷲掴みにし、生徒たちの万雷の拍手が体育館を揺らした。

「素晴らしい応援演説をありがとうございます! では、立候補者の北原綾芽さん、よろしくお願いいたします」

 先ほどまでの眩暈のことなど私は忘れかけていた。私は、一歩一歩、レッドカーペットの上を突き進むハリウッド女優のように、壇上へと向かった。

「ただいまご紹介にあずかりました二年三組の北原綾芽です。私は、一年の時は書記として、現在は会計として、生徒会役員のお仕事に携わらせて頂いております。約二年間、私は偉大なる先輩方の活動をこの目で見て、しっかりと焼き付けて参りました……」

 そこまで話したところで、燃え滾る熱情とは裏腹に、頭からスーッと血の気が引いていくような感覚を覚えた。目の前が突然真っ暗になり、


――北原綾芽、松永悠介、山中清花……


 私たちの名前が映画のエンドロールのように流れ、そこでぷつりと切れた。

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