第二幕ー19

「もう気付かれているかもしれないけど、私、悠介のことが好きなの。子どもの頃からずっとよ。ううん。『好き』なんていう薄っぺらい言葉じゃ表現できない。もちろん『愛してる』なんて言葉も陳腐だわ。私は、悠介がいなかったら生きていけないの!」

 清花の鬼気迫る表情に私は気圧されそうになった。

「清花が悠介のことを好きなことはわかったわ。だけど、悠介がいなかったら生きていけないとか、ちょっと大袈裟よ。私たち、まだ十四歳なのよ? これからだって、今だって、悠介以外の男の子に惹かれることだってあると思うの。悠介だって同じよ。彼だって他の女の子に惹かれるかもしれない。そうなった時、私たちが『幼馴染』だからっていう理由だけで止める権利はないでしょう? じゃあ、何? 清花は、もし、悠介に彼女ができたら、死ぬつもりなの? そんなの傲慢だわ!」

 私は心臓を捻り潰されるような痛みに耐えながらそう言った。清花に放った言葉は、すべて自分に向けての言葉でもあったから。

「そうよ……私は、悠介を失ったら死ぬの。他の誰でもない。あなたに悠介を奪われたら、私、本当に死ぬから!」

 清花の目に、業火が滾っていた。

「何? 私、清花にそんなに嫌われているの? どうして? 二人の間に無理矢理入り込んだことを恨んでいるの?」

 流石に、私も苛立ちを隠すことができなくなっていた。

「綾芽は、何でも持っているよね?」

「えっ? うちが裕福だってことを言いたいの?」

「それもあるけど……綾芽は皆がどんなに努力しても手に入れることができないものを生まれながらに持っているの。優秀な頭脳、抜群の運動神経、美しい容姿、皆と仲良くできるコミュニケーション能力、カリスマ性……私は、その中のひとつも持っていない!」

「ひとつも持ってないなんて、あまりにも自分を卑下し過ぎじゃない? 傍から見れば恵まれているように見えるかもしれないけど、私だって努力しているのよ。それに、その話と悠介の話がどう関係するのか、話が見えてこないんだけど」

 私は、誰が使っている机なのかわからない机に腰掛け足を組んだ。Ridiculous!(くだらない)Ridiculous! どいつもこいつも、くだらないっ! 

「綾芽はすべてを持っている。私には悠介しかいないっ! だから、私から悠介を取り上げないでっ! お願いっ!」

 そう言いながら、清花は涙を流した。ああ、楔を刺されたわけか。反吐が出る。私は、清花のこういうところも大嫌いだった。弱者を装って、相手の同情を誘って、自分の思い通りに事を運ぶ。彼女自身そのことに気付いているのかどうかは分からないけれど、考え方次第では、相当あざとい女だと思った。悲劇のヒロインぶってめそめそしている清花に対して私の中の「闇」が暴れ出す前に、私は教室を去った。この時、清花に刺された楔は、この後の私たちの関係に重く重くのしかかることとなった。

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