第二幕ー18

「トワイライト(Twi light)」 二つの(Twi)光(light)。つまり、「太陽」と「月」が入れ替わる時だと、授業で英語教師がしたり顔で話していたことを私は思い出していた。私と清花は、人気がなくなった放課後の教室の窓から、陽光が少しずつ闇夜に呑み込まれていく様を眺めていた。太陽と月。私と清花。当然、太陽は私であろうとあの時は決めつけていた。私は私の「闇」を上手く飼い慣らしているつもりでいたのだ。自分から呼びつけておいて、清花は、不貞腐れたような顔をしていて一向に口を開く気配はなかった。私は、清花のこういうところが大嫌いだった。察して欲しい。思い遣って欲しい。優しくして欲しい。欲しい、欲しい、欲しい、「欲しい」のオンパレードだ。苛々する。夏の残滓もすっかり消え失せ、すっかり秋めいてきた頃だった。陽が沈むにつれ、ひんやりとした空気が教室に充満していた。こんな所で不毛な時間を過ごすほど私は暇ではなかった。痺れを切らした私は、彼女の思惑どおり口火を切った。


「話って何なの? 私、この後塾があるから、あまりゆっくりもしてられないんだけど」

「相変わらず、忙しそうね」

 清花は皮肉っぽく言った。真っ赤に燃え盛る夕日を背に逆光で影みたいになった彼女の口角の端が不自然に上がった。

「ねえ、綾芽。悠介と何かあった?」

 直球で投げかけられた質問に私は動揺のすべてを隠し切ることができなかった。清花は昔から妙に勘が鋭かった。ママが家に悠介と清花を招いた時も、”品定め”というママの意図に気付いていたのは清花だけだった。

「何もないわよ。お互い忙しくて会う時間なんてないもの。清花だってそうでしょ? みんな、それぞれのスクールライフを送ることで目一杯。昔みたいに、四六時中一緒に居ることなんてできやしないのよ」

 私は、出来得る限りドライに言ってのけた。

「そう……それならいいんだけど。私の気のせいだったのかな? なんか、綾芽、昔と雰囲気変わったような気がして」

「そりゃあ、雰囲気くらい変わるわよ。私たち出逢ってから八年も経っているのよ。六歳児のまま何も変わってなかったら、その方が奇跡だわ」

 私は、清花の詰問から一刻も早く逃れたくて、多少のユーモアを織り交ぜながら答えてみたが、清花から向けられた猜疑の目はクリアになるどころかより一層濁っていた。

「わかった。じゃあ、私、綾芽の言葉を信じるね。信じた上で今から大切なこと話すから、私の話聞いてくれる?」

「いいよ」

 正直、聞きたくなどなかった。清花が話そうとしていることは容易に想像ができたし、それを聞いてしまうことによって、私は、これから先の人生、ずっと清花によって監視されるような気がしたからだ。ドラマみたいに、タイミング良くスマートフォンが鳴って「ごめんねっ! 急用ができたの! 話はまた今度ゆっくり聞くから!」と言って立ち去ることができたらどんなにいいだろうと思った。

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