第二幕ー17『追憶4』

 私は、中学も両親の反対を押し切って公立の学校に進学した。一度決めたらテコでも動かない私の性格を思い知らされた両親は、逆に私を自由にさせるという放任主義に切り替えたようだ。ただし、条件は出された。「全国統一中学生テスト」で常に上位十パーセント以内に入ること。生徒会に入ること。この二つの条件を継続できなくなった時点で、私立の中学校に編入するという誓約書にも署名をした。正直、この程度の条件は私にとって然程難しいものではなかった。幼少期に実母による虐待を受けたという不幸な経験はしたものの、遺伝子的には幸い恵まれていた。東大卒の父の頭脳、忌々しい女の張りぼての外見。そして、アメリカのプリスクールで身に着けたコミュニケーション能力。そのお陰で、意に反して、私はスクールカーストの頂上へと祭り上げられた。

 中学時代の私たちの距離感は実に微妙だった。元々が歪だった私たちの関係は、波打ち際に建てられた砂の城が波にさらされ原型を失うかのように崩壊していった。十二歳のあの夏の日の出来事は、悠介と私を鎖で雁字搦めにした。私たちは「運命共同体」。たとえ死んでも、私たちは何度でも惹かれ合う。何度でも。何度でも。表面上、私たちは、それぞれのスクールライフに専念しているように見せかけた。私は生徒会の活動や塾通いなどで多忙を極めていたし、悠介はテニスに打ち込んでいた。清花は、確か、絵本部に所属していたと記憶している。三人は、まるで、お互いが意図してそうしているかのようにすれ違いの生活を送っていた。しかし、それは、清花に対してのカムフラージュだった。悠介と私は、清花の目を盗んで時々二人で逢っていた。誰も知らない二人だけの秘密の時間が、私の中の「女」を育んでいった。そんな私の変化に気付いたのか、ある日、私は清花に呼び出された。

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