第二幕ー14


 それから、私は、何かにつけて、悠介と清花の間に割って入った。そんな私を、悠介は快く受け入れてくれたが、清花は作り笑いの仮面の下に、明らかに私に対する嫌悪感を滲ませていた。鈍感な悠介はそんな清花の心の機微に気付く筈もなく、私もまた、気付かないフリをしてずかずかと二人の間に入っていった。「郷に入っては郷に従え」という日本のことわざを覚えた私は、いかにもお嬢様です、とアピールするような高価な洋服を着ることを止め、近所の同年代の女の子たちが着ているような安っぽい洋服を、ファストファッションのお店で買って着るようになった。私の方からみんなに歩み寄ることで自然と友達が増えた。そんな私の変化をママは心配していたが、ママにもやりたいことがみつかったようで、以前ほど過保護ではなくなっていた。

 私は、両親の反対を押し切って公立の小学校に入学した。世界有数の大企業において異例の速さで役員クラスに昇進した父が、一人娘を「3大名門公立小学校」ならぬ普通の公立小学校に入学させたことで父に大変な恥をかかせてしまったことは想像に難くなかった。しかし、両親の面子を潰してまでも、私は、悠介と一緒の学校に通いたかったのだ。一体、何が娘を頑なにそうさせているのか? 私の将来を案じた母は、私の交友関係などを洗いざらい調べ上げ、悠介と清花の存在に辿り着いたようだった。


 ある日、ママは、悠介と清花を自宅に招待するように私に言った。ママが、二人の”品定め”をすることを目的としていたことに気付いたのは私がもう少し大きくなってからのことだった。当時の私は、ママが二人を家に招いたことを良い意味に捉えていた。二人が家に遊びに来た日、私は、普段着ている安物の洋服ではなく、日本に移住した当初着ていたお上品なワンピースを着るようにとママに言われた。「どうして?」と訊くと、ママは、「綾芽の大切なお友達をお家に呼ぶんですもの。きちんとしたお洋服を着ていないと失礼でしょう?」と答えた。その答えに対して妙な違和感を感じつつも、私はママの言う通りにした。悠介は、普段通りカジュアルな服を着ており、清花はいつもよりもおめかしをしていた。きっと、当時の私たちの中でいちばん大人の社会のことを分かっていたのは清花だったのだろうと思う。無駄に贅を尽くした豪邸に足を踏み入れた悠介は、無邪気に「すげえ! すげえ!」と驚きの声をあげていたが、清花は、終始、ママのことを警戒していた。二人が帰った後、「二人とも、とってもいい子ね」と言ったママは口元にだけに笑みを浮かべて言った。それ以降、ママが、二人を家に招き入れることはなかった。

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