第二幕ー12
「だいじょうぶ。わたしならやれる。わるいヤツはやっつけないとね……」
妙に頭の中がクリアだった。勝太の金魚の糞たちは、勝太による、少年の公開処刑に釘付けになっていた。私は、ヤツらが置いて行ったバケツの中にあった全ての泥団子の中に石を詰めた。戦闘準備が整った私は、手下たちに気付かれない程度に距離を縮め、ヤツらに石入りの泥団子を投げつけた。ヤツらは負けを悟ったのか、蜘蛛の子を散らすように退散していった。次に、勝太に狙いを定め、動きのパターンを観察した。ヤツの隙を見つけた私は、力の限り泥団子を投げつけた。泥団子は、見事、ヤツの顔に命中し、ヤツは「うわっ!」という間抜けな声を上げて、顔を押さえながら砂場の上で、死ぬ直前の害虫みたいに四本の手足をジタバタさせて藻掻いていた。私は、手下たちに見捨てられた間抜けな大将を高みから見下ろし、間髪入れず泥団子を投げつけた。
「もう、やべてくえよお……」
口の中が切れたのであろう。泥と血でいっぱいになった口からやっとのことで発せられた言葉を聞いた私は、密かに、愉悦を覚えた。のたうち回りながら命乞いをする勝太の鳩尾をぐりぐりと踏みつけながら、
「おいっ! デカブツっ! オマエ、あやまれ! 私と、この子にしたことをあやまれ!」
と叫んだ。私は、勝太を踏みつけながら、その横でぐったりと横たわっている英雄の耳元で「助けてくれて、ありがとう」と囁き、ゆっくりと彼を抱き起した。そして、その隙を突いて逃げ出そうとしている勝太をギロリと睨みつけ、
「おいっ! にげるなっ! この、ひきょうものっ! どげざしてあやまるまで、わたしは、オマエをゆるさないっ!」
と言った。私に気圧された勝太は泥の涙を流しながら、
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ゆるしてください、もうしませんっ!」
と言い、這う這うの体で逃げて行った。勝太が、私と少年から遠のいて行った。大きな体がどんどん小さくなって、私たちの視界から消えるまで、私と少年は、ヤツを監視した。
「わたしたちの、かちね!」
私は少年に向かって言った。少年は泥だらけになった顔を破れたロンTの切れっ端で拭いながら、ふふ、と笑った。
「『わたしたちの』じゃなくて、『きみ』のかちだろ? びっくりしたよ! きみ、『はくあのしろ』のおじょうさまだろ? かよわい女の子だとおもってたら、めちゃくちゃつよいんだもの!」
私は、少年に、あの鬼のような顔を見られたかと思ったら、急に恥ずかしくなって顔が真っ赤になった。
「あなたが、ヤツらにたちむかってくれなかったら、わたしは、きっと、ヤツらにやられっぱなしで、ずっと、めそめそ泣いていたとおもうわ。あなたが、わたしをたすけようとしてくれたから、わたしはつよくなれたの! だから、やっぱり、『わたしたち』のかち、なのよ?」
「そっか、うん。それじゃあ、『おれたち』のかちだな!」
そう言って、少年は、はにかみ笑いをした。オレンジ色の夕焼けがスポットライトみたいに彼を照らしていた。
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