第二幕ー11


 前日まで、勝太たちのターゲットにされていた、ひょろっとした眼鏡の男の子の姿は見当たらなかった。勝太たちは、砂場の真ん中で嬉々として何か作業をしていた。

「Ridiculous!(くだらない!)」私は、ため息と一緒に言葉を吐き出した。この公園に通うようになってから初めて見る、私と同い年くらいの男の子と女の子の二人組の姿が私の目の端に映し出された。ざらついた不穏な雰囲気が辺り一面に充満していた。鈍色の雲が完全に陽の光を包み隠した。読んでいた本を閉じ、顔を上げると、眼前に勝太たちの姿があった。

「何か、私に用?」

 そう言うと、勝太は、金魚の糞たちに向かって、

「『なにか用?』だってよ? みんなきいたかよ? ほんとうになまいきな女だぜ! みんな、じゅんびはいいか?」

 というと、おーっ! という鬨の声が挙がった。刹那、勝太たちが手にぶら下げていたバケツから泥団子が私目掛けて一斉に投げつけられた。ああ、こういうことだったのか。くだらない、くだらない、くだらない!


 私は、ひょろっとした眼鏡の男の子の次のターゲットに選ばれたのだ。幼少期に実母から受けた虐待の映像が鮮明に蘇った。次々に投げつけられる泥の塊が、あの女の怒りの拳と重なった。悔しい、悔しい、悔しい。どうして私だけがこんな目に遭わなければならないの? 悲しい、悲しい、悲しい。思わず涙が零れた。純白のワンピースが泥で汚されていく。私の心も汚されていく。清くいたい。美しくいたい。あの人みたいには絶対になりたくない。いやだ、いやだ、いやだ。夥しい量の感情に圧し潰されそうになった時、薄らいでいく意識の中、誰かの声が聴こえた。

「くだらないことは、もうやめろ! この子がオマエらになにかしたのかよ?」

 ママみたいに、瞳に光が宿った少年が勝太に噛みついていた。華奢な少年が、がたいがいい勝太に力で敵う筈もなく、少年は片手で勝太に引っ張り上げられ、そのまま砂場まで運ばれ、空港に到着した飛行機のコンテナから乗客の荷物をシューター目掛けてぞんざいに投げ込むスタッフのように、少年を砂場に投げつけた。少年は成す術もなく、そのままサンドバッグのようになって、勝太にタコ殴りにされていた。再び、私の脳裏に映像が映し出された。それは、先刻見た、実母による虐待の映像の続きだった。泣き喚くことさえ赦されず床に仰向けにされ実母に殴りつけられていた私が右手を少し伸ばすと、そこには、ナイフが落ちていた。頭が狂った実母の意識は私を痛めつけることにのみ集中しており、私の些細な動きにまで注意を払えていない。私は、手探りで、そっとナイフを掴み取り、実母の顔目掛けて唾を吐き、実母がそれを拭うために両腕を私から離した瞬間、女をナイフでめった刺しにした。女は、血だまりの中、間抜けな顔をして絶命していた。そこで、映像は終わった。

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