第二幕ー8
まるで予め用意されていたように、新しい母と名乗る女が家に入ってきた。
「ねえ、前のママね、わたしのことなんかうまなきゃよかったっていってたの。あなたは、わたしのほんとうのママじゃないのに、わたしがじゃまじゃないの?」
そう言うと、彼女は、瞳から大粒の真珠みたいな涙をぽろぽろ流しながら、私をぎゅっと抱きしめた。彼女のぬくもりが傷ついた躰を癒していくような気がした。
「そんな悲しいこと言わないで。ほんとうのママじゃないなんて悲しいこと言わないで。私は、綾芽を産んだママじゃないけど、綾芽のたったひとりのママになりたい。だめかなあ?」
氷壁が溶けて崩れ小川となり、さらさらとした清水のせせらぎの音が聴こえた。その時から、私たちは血のつながった母子以上の絆で繋がった母子となった。私のママは世界中でひとりだけ。私は、ママのことが大好きになった。私は、この頃、長きにわたり虐待を受け続けたことによる心的外傷ストレス障害(PTSD)を患っていた。虐待されたことを繰り返し思い出して苦痛で蹲ったり、恐怖で叫んだり、自分自身の躰に傷をつけることもあった。そんな時、ママは、
「大丈夫、大丈夫だから、ママが綾芽を守ってあげるからね」
と言って、発作が落ち着くまで、ずっと私を優しく抱きしめてくれた。
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