第二幕ー4

 調べによると、有名なネイリストであり、ネイルスクールも経営している北原綾芽の母、北原紫きたはら ゆかりは、北原綾芽の実母ではなく継母であり、綾芽の実母である月島光希つきしま みつきは、重度の育児ノイローゼにより綾芽に虐待をしていたという証言が、当時、北原一家が住んでいた、アメリカのトーランスのDCFS(Department of Children and Family Services ※日本の児童相談所にあたる米国の機関)の職員によりなされている。おそらく、北原綾芽が示唆した「あのおばさんとそっくりな人」というのは、実母である月島光希のことであろうと思われる。そして、実母と同じ『狂気』が自分の中に渦巻いていることも、おそらく、彼女はわかっているのだろう。


「そうか……犬が飼い主を選べないということは、人間の子どもが親を選べないのと同じことなんだろうな。まあ、人間の子どもが云々の方は、俺がとやかく言う資格はないがな」

「そうね……」

 そう言って、北原綾芽は微笑んだ。

「なあ、オマエにとって、松永清花や松永悠介は、どんな存在だったんだ?」

「どんなって? 大切な幼馴染よ」

「じゃあ、どうして、その大切な幼馴染を、オマエは手にかけなきゃならなかったんだ?」

 中島の問い掛けに対して、北原綾芽は口を噤んでしまった。長い長い沈黙の時間が流れた。ちょっとがっつき過ぎたかと中島は後悔した。開きかけていた北原綾芽の心を、再び閉ざしてしまった。中島は自分の眉間に手を当てた。また溝が深くなったような気がした。今日も彼女から自供を引き出すことは難しいだろう。中島が諦めかけた瞬間、北原綾芽の形の良い唇から言葉が発せられた。


「私たちはね、『運命共同体』だったのよ……」

「どういう意味だ?」

「話せば長くなるわ」

「構わん。聞かせてくれねえか? オマエさんの話をよ」

 こうして、北原綾芽は、唐突に自供を始めた。

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