第一幕ー31
その後の私の高校生活は、涅色だった。元々つるんで行動することが苦手な私にとって、クラス全員からハブられることは苦ではなかったが、教科書や靴、体操着などを捨てられるのには、ほとほと参った。両親は、相も変わらず妹に付きっきりだったので「学校でいじめに遭っていて、教科書や靴や体操着を捨てられてしまうので新しいものを買ってください」などと言える筈もなかった。仕方がないので、教科書は悠介に借り、靴は普段履きの靴を使い、体育の授業は体調不良だと嘘を吐き見学した。悠介は、私の前で愚痴や弱音を漏らすことはなかったが、部内でも大人気だった綾芽を振った男という噂はあっという間に広がり、部内で、悠介がとても苦しい立場に置かれていることは知っていた。しかし、私と一緒に居る時の悠介はいつも笑顔を絶やさなかった。私に余計な心配をかけまいとする悠介の優しさと男のプライドを踏みにじるまいと、私は、何も知らない振りをした。そして、彼もまた、私がクラス内で辛い目に遭っていることを知りながらも、何も言わない私の気配りを察し、知らない振りをしてくれた。どんなに辛い状況下に置かれながらも、二人で一緒に居ることさえできれば、私たちは、世界で一番、幸せだと思っていた。
数か月の時が過ぎ去り、受験へのカウントダウンが始まると、皆、自分の将来のことを案じるようになり他人にちょっかいを出す余裕が無くなったのか、自然に私に対するいじめも無くなった。もう、皆の目に私の姿は映っていなかったのだろう。それは、同時に、皆の綾芽に対する愛執が弱まっていたことをも意味していた。人気を博していた子役スターがいつの間にか大人になり人知れず芸能界を引退していた。皆にとって、私と綾芽はその程度のものだったのだろう。
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