第一幕ー26
厳しい地区予選を勝ち抜いた各部の祝い幕が、多分に湿気を含んだ熱風に煽られながら経年劣化した薄墨色の校舎に威厳を与えていた。その中には「祝 インターハイ出場 男子テニス部」と印刷された祝い幕も含まれていた。男子テニス部が地区予選一位でインターハイ出場を決めた後、悠介と綾芽がどうなったのかを、この時の私は知らなかった。試合があった土曜日の夜も、日曜日も、二人からの連絡はなかった。少し気にはなっていたけれど、きっと、恋人同士になった二人でお祝いのデートでもしているのだろうと思っていた。教室に入った途端、異変に気付いた。いつも早くに登校している綾芽の姿が見当たらない。入学以来皆勤賞だった綾芽が姿を現さないことに対し、クラス中が不穏な空気に包まれていた。私が席に着くや否や、瑞樹と紗理奈が血相を変えて私の元へと駆け寄って来た。
「ねえ、清花、綾芽から何か連絡きてない?」
二人の迫力に気圧され、仰け反りそうになりながら、私は、
「何も……」
と、蚊が鳴くような声で答えた。
「そう……清花にも連絡きてないんだ……」
二人はがっくりと肩を落とした。
「ねえ、綾芽に何かあったの?」
「うん……綾芽に何かあったんじゃないかって思って、うちら、めっちゃ心配してるんだ」
と、瑞樹が言った。
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