第一幕ー16『反省文4』
とても風が強い日だった。風に煽られた薄紅色の桜の花びらが数枚、ほろほろと風の軌道に沿って舞っていた。鼠色の校門の門柱には長年雨風に晒されたために黒い筋汚れができており、ブロンズ鋳造の学校銘板には「都立
私たちの学年は六クラスあって、私と綾芽は一年三組で、悠介は一年五組だった。欲を言えば、私と悠介が同じクラスで綾芽だけ別のクラスになるのがいちばん良かったけれど、綾芽と悠介が同じクラスで私だけ別のクラスになるという最悪の事態を避けられたことに私は心の底から安堵した。「都立阿佐美高等学校」は、公立高校としては珍しく部活動に力を入れている学校で、私立高校と渡り合っている部活動もいくつかあった。そのため、上級生たちは、即戦力となり得る実力を持った新入生を獲得するために、しのぎを削っていた。
「ねえ、清花は部活、何入るか決めた?」
昼休み、焼きそばパンを齧りながら綾芽が訊いてきた。
「まだ決めてないけど……私は文化部系の部活に入ろうと思う」
私は、幼い頃から運動が苦手だった。運動神経が悪いのも理由の一つだが、人と競い合うことが根本的に嫌いだった。綾芽が引っ越してくるまでは殆どの時間を悠介と二人で過ごしていたので、他の子たちに声を掛けられることもなかったのだが、三人でつるむようになってからは、よく、他の子たちから、鬼ごっこやらドッジボールなどに誘われるようになった。綾芽も悠介も活発な性格だったのでよく誘いに乗っていたが、渋る私を気遣って、どちらか一人は残って私の傍に居てくれた。私は、その心遣いが嬉しくもあり、鬱陶しくもあった。
「そうなんだ。実はね、さっき購買に行った時、悠介に会って、三人でテニス部の見学に行かないか? って誘われたんだけど、どうかな?」
悠介が、小学校、中学校とテニススクールに通っていたのは知っていたが、綾芽がテニスについて語ったのは、この時が初めてだった。
「えっ? 綾芽、テニスやったことあるの?」
「うん。実は、アメリカに住んでいた時、プライベートレッスン受けてたの。日本に来てからずっとやってないからブランクが心配なんだけど……折角の高校生活だし、部活で青春するのもアリかなって思って」
「悠介は、綾芽がテニス経験者だって知ってるの?」
「あっ、うん……悠介の紹介で、悠介が通っているテニススクールの見学に行ったことがあって……確か、
綾芽はバツが悪そうに言った。
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