第一幕ー15
私は、悠介と一緒に、北原邸に招かれた時のことを思い出していた。綾芽のお母さんは、私たちの想像以上に美しい人だった。元のつくりが良い上に、髪先から指先まで手入れが行き届いており、キラキラと輝いていた。彼女は、私たちと接している間、終始優しい笑みを絶やさなかったが、その瞳が少しも笑っていないことに気付いたのは私だけで、悠介は、綾芽のお母さんに対しても良い印象を抱いているようだった。今まで見たことがないような高級な洋菓子を振舞われ、私は、母に持たされた地元の商店街で買った饅頭を、バッグの奥底にそっと忍ばせた。おそらく、綾芽のお母さんは、愛する一人娘の友人として、私たちが、「分相応」でないことを身をもって知らしめるために私たちを、「白亜の城」に招いたのだろうと思う。
結論から言うと、綾芽は、両親の反対を押し切って、私たちと同じ都立中学へと進学した。我が強い子だとは感じていたが、流石にここまで強情だとは思わなかった。初っ端から歪んでいたトライアングルは、この頃になると、熱を帯び、ぐにゃりぐにゃりとその原型を維持できなくなっていた。正直、私は、この頃のことをよく憶えていない。心の深層で埃をかぶっている「パンドラの箱」をこじ開けようとすると、激しい眩暈と吐き気に襲われ、頭を鈍器で強打されたような強烈な痛みを伴うのだ。そんな私の事情もあり、中学校時代のことを、書き留めることはご容赦いただきたいのです。
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