第一幕ー14『反省文3』
「泥団子事件」以降、私は、悠介と二人で過ごす時間を綾芽に奪われた。何かにつけて私と悠介の間に割って入ってくる綾芽を、悠介は快く受け入れ、私は偽りの笑みを浮かべながら心の中では拒絶していた。そして気付けば、私と悠介と綾芽が一緒に過ごす時間は日常的なこととなり、初めの頃、彼女が使っていた「私も、一緒にお喋りしていい?」という断りの言葉も不要なものとなっていた。「泥団子事件」で、嫌われ者の勝太を返り討ちにした勇敢なお嬢様の噂はあっという間に子どもたちの間に伝わり、綾芽は、近所の子どもたちの間で大変な人気者となった。「泥団子事件」で苦い思いをした綾芽は、幼いながらに、郷に入っては郷に従うべきだと肌で感じたのだろう。この地に入ってすぐの頃身に纏っていた高価なワンピースは一切着ることがなくなり、ファストファッションのお店で購入した、見るからに安っぽい服を着るようになった。しかし、どんな安物の布も、彼女が生まれ持った気品や美しさまで隠しきることはできなかった。年齢が上がるにつれ、綾芽の美しさには増々磨きがかかり、中学校に入学する頃には、芸能事務所からスカウトを受けることも、彼女にとっては日常生活の一部となっていた。
綾芽の父である
「ねえ、清花。私、清花や悠介と同じ、公立の中学校に進学したいのに、パパとママに反対されているの」
綾芽から相談を受けた時、私の中でずっと燻っていた疑問に火が点いた。そもそも、彼女のようなお嬢様が、こんな下町の公立の小学校に居ること自体不自然なことではないのか、と。同時に、私の中で、猜疑心が芽生えた。彼女が一緒に居たいのは、私ではなく、悠介なのではないか、と。
「綾芽は、どうして、そこまでして私や悠介に拘るの? 綾芽が私立の中学校に進学したからって、私たち三人の絆が弱まったりするのかなあ? 私は、綾芽のパパやママが言う通り、私立の中学校に進学するべきだと思うけどな。だって、綾芽みたいなお金持ちのお嬢様が、わざわざ親の反対を押し切ってまで公立の学校に進学するなんて、変だもの」
そう言うと、綾芽は、
「ずっと、三人で一緒に居たいって思うのは、悪いことなのかなあ」
と、寂しそうな表情をした。
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