第一幕ー12

「アイツら、むていこうな女の子を、よってかかって……ゆるせねえ」

 勝太たちに立ち向かおうとする悠介を、私は必死で止めようとした。

「まって! ゆうすけ! 私、おとなたちをよんでくるから! ゆうすけ一人で、どうにかできるあいてじゃないよ!」

 私が絞り出した言葉は、頭に血が上った悠介には、まるで届いていないようだった。悠介は、一瞬で勝太たちの元に到達し、背後から、勝太に掴みかかった。不意を突かれた勝太は一瞬ぐらついたものの、すぐさま態勢を立て直した。

「なんだ? オマエ? この女に気でもあるのかよ?」

「くだらないことは、もうやめろ! この子がオマエらに何かしたのかよ?」

「あ? べつに。なんかきどっててムカつくから、バツをあたえたんだよ!」

「さいてーだな! このデブっ!」

「なんだと?」

 勝太が、悠介の胸ぐらを掴んで、そのまま悠介を片手で引っ張り上げた。町内子ども相撲大会で上級生たちを押さえて優勝した勝太の体は小学校入学前の児童とは俄かに信じ難いほど大きかった。悠介の華奢な体は宙に浮き、彼は、地面から浮いた両足をジタバタさせて必死に抵抗しているようだった。勝太は、そのままの態勢で悠介を砂場まで運んで行き、砂場の上に放り投げ、そのまま、悠介の上に馬乗りになって、殴り掛かった。私は、極度の恐怖で脚が竦み、頭の中が真っ白になった。異変に気付いた周りの子どもたちもざわめきだした。大半の子どもたちが、私と同じように、恐怖心から動くことができずにいた。無抵抗な悠介を見下ろし嘲笑った勝太の右手の拳が、悠介の鼻を目掛けて振り下ろされた。その刹那、勝太の目に黒い物が直撃した。泥団子だった。勝太の口から「うわっ!」という情けない声が零れた。目を押さえながら砂場の上でのたうち回る勝太に、間断なく泥団子が命中した。目、鼻、口、すべての空洞が泥でいっぱいになり、勝太は、口から泥を吐き出しながら、

「もう、やべてくえよお……」

 と、情けない声をあげて泣き出した。勝太の手下たちも、他の子どもたちも、いつの間にか公園から姿を消していた。べそをかきながらのたうち回る勝太の大きな体をぐりぐりと踏みつける細い脚が私の視界に入ってきた。

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