第一幕ー11
春休みの間、綾芽は、毎日のように公園に来ていた。正攻法では、綾芽に相手にされないことを無意識に感じ取っていたのか、悪ガキグループのリーダーの
「綾芽を泣かせようぜ!」
という、いかにも頭の悪そうな提案をした。手下たちは勝太の提案に興奮しているようだった。女の子たちは、勝太たちのやり取りを見て口元に歪んだ笑みを浮かべていた。そして、勝太たちは、喜々としながら泥団子を量産した。
「よしっ! これくらいあれば充分だろう!」
勝太が言った。手下たちは、各々、泥団子が山盛りに入ったバケツを手にぶら下げ、綾芽に近づいて行った。異変に気付いた綾芽は、
「なにか、私に用?」
と言った。
「『なにか用?』だってよ? みんなきいたかよ? ほんとうになまいきな女だぜ! みんな、じゅんびはいいか?」
まるで、敵陣に総攻撃を仕掛けようとする軍隊のように士気を高めた手下たちが、一斉に雄叫びを上げた。勝太は、プロ野球の始球式のように、泥団子を綾芽に向かって投げた。それは綾芽の胸元に命中し、純白のワンピースに汚らしいよごれができた。人は、美しいものを汚し傷付けることで、征服、所有したいという欲望に駆られるらしい。理性が吹き飛んだ手下たちは、綾芽目掛けて次々と泥団子を投げつけた。綾芽は、避けようと必死だったが、五人の男子が一斉に投げる泥団子から逃れる術はなく、みるみるうちに、純白のワンピースは、泥塗れになり、綾芽は堪らず泣き出した。その様子を見ていた悠介の体が、小刻みに震えていた。力いっぱい握りしめた拳からは、うっすらと血が滲んでいた。
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