序幕ー4

「ひとりぼっちにすると、この子、何やらかすかわからなくて……子供のころからそうなんですよ。清花さやかは、とってもおとなしい性格の子だから、大勢のお友達と遊ぶのが苦手で……だからね、他のお友達に遊びに誘われたときは、私か悠介ゆうすけのどっちかが清花の傍に残ってあげたんですよ」

 そう言って、北原綾芽は昔を懐かしむような表情をしてふふっと笑った。

 一方、マルガイの松永清花の遺体には死斑などの死体現象がはっきりと見て取れ、腐敗も始まっていることから死後二十四時間以上経過していることは明らかだった。北原綾芽が、全身に浴びた血飛沫をそのままの状態で放置しておいたのに対し、松永清花の顔は、薄っすらと死化粧が施されており、彼女の両手の爪には、「死」という、儚く美しい現象を彩るのに相応しいネイルアートが施されていた。艶のある漆黒のネイルの上には若紫色の花びらが一枚一枚気が狂いそうなくらい美しく咲き乱れており、金色の星がちらりちらりと舞い、その美しさを後押ししていた。自分の手で殺めた女に美しいネイルを施すという行為は、ベテラン警察官の中島でさえも記憶にない事例だった。

 この凶悪な殺人事件の裏に隠された真実とはいったい何なのか。定年を間近に控えた中島警部が担当した『世田谷美人ネイリスト殺人事件』は、その話題性・特殊性から、マスコミ、一般人を大いに狂喜乱舞させ、事件史上にその名を刻むこととなった。

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