序幕ー2

 事件現場に到着すると、すでに、近隣・周辺住民の人だかりができていて、暗闇の中をもぞもぞと蠢いていた。機動捜査隊員、鑑識課員はすでに臨場しており、初動捜査に精を出していた。中島警部と内海警部は、本部通信指令センターから共有された情報をもとに、北原邸の一階南奥に位置する『プライベート ネイルサロン ルーム』に足を踏み入れた。畳十四枚分くらいの部屋のほぼ中心にはダークブラウンと白の、施術用と思われるリクライニングチェアが二台並んでいた。白の方のチェアの背もたれは百六十度ほどに傾いており、チェアのすぐ横の作業台のようなテーブルの上には、ロボットの半頭部みたいな機械や、色とりどりの薬剤が入った小瓶、サーフボードみたいな形をしたやすりなど、中島警部が今まで見たこともないものが、雑然とした状態で置かれていた。壁際には、アンティーク調のウォールシェルフが等間隔で据え付けられており、色とりどりの液体が入った小瓶が何百色も飾られていた。それぞれの色の名前などわからないが、色相・彩度・明度ごとに並べられているのだろう。その規則性と警察組織の序列・階級が似通っているような気がして、中島警部は込み上げてくる嗤いを必死で呑み込んだ。窓際にはキャスター付きの収納ワゴンが三台並べ置かれていた。真ん中のワゴンだけが、慌てて駐車した車みたいに列から頭二つ分くらい飛び出しており、細かい備品が床に散らばり落ちていた。その下に、地下室への出入り口が隠されていた。

「開けますよ」

 そう言って、内海警部は、三センチほど空いた床の隙間に右手の第二関節をフックのように引っ掛け、無垢フローリングのブロックをスライドさせた。暗闇の中、突如、地下へと通じる階段が現れた。そこには、陽の光が射し込む地上の住居スペースからは想像もできないような陰鬱な空間が広がっていた。勾配の強い木製の階段は、階段というよりは梯子といった方がしっくりくる感じで、此処かしこが朽ちて、酷くかび臭い。中島警部は、慎重に一段一段踏板を下りていった。みしみしと軋む音が不気味に鳴り響いた。階段を下りきると、中島刑事の前方十メートルほど先は行き止まりになっていた。鼠色のコンクリートで囲まれた壁は、ただただ無機質で、まるで監獄のようだった。余程注意深く観察しないと、出入り口となっているドアなどどこにも存在しないように見えたが、よくよく目を凝らすと、一箇所だけ、長方形の枠線が入っていた。

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