第25話

「!? 夢か……」

 

 それは前世の夢、まだ俺が明日へ希望を抱き信頼できる友人や主と共に無邪気に人間のためにと戦っていた時の記憶。


「まったく今になってなぜあんな夢を見るんだ、やはり奴にあったからか」


 起き上がり、いつも纏っているフード付きのローブを着る。


 あいつは俺の正体に気づいただろうか? 自分と戦っていたローブの男が前世の友人、クレイ・トワイライトだということに。


「いや、あの様子だと気づいていないな。まったく今の世にお前を転生させたのは俺だというのに」


 まあ気づかないのも無理はないがな、人を転生させるなど俺以外には出来ない芸当なのだから。


「……それにしても楽しそうだったな、ライアム家に拾われ育てられていたとは俺も思わなかったぞ」


 俺は今世でグレンを転生させることに成功した。しかし、事情であいつの転生体の行方は分からなくなっていたのだ。それがこんな形で再会できるとは。


「せいぜい楽しむといい。お前はいずれこちらにくるのだからな」


 口角をあげて俺は笑みを浮かべる。お前が俺とあの御方の仲間になるのが楽しみだ。


「さて、あの御方に報告に行かねばな」


 俺は転移し、ある場所に向かう。俺の仕えている主がいる場所へ。



 転移した先は綺麗な花が咲き誇る庭園だった。我が主が花を好むため、この場所を作ったのだ。

 俺は歩を進め、庭園の奥へと向かう。奥には一人、人がいた。幼い少女だ。


「あー、クレイだ。戻ってきてたんだね」


 花と戯れていた少女は足音で俺が近づいているのに気付いたのかこちらを振り返り近づいてきた。

 肩口まである綺麗な金髪、血のように赤い瞳。黒いドレスを来た人形のような容姿をした少女はどこか人間離れした雰囲気を纏っていた。


「おかえり~。首尾はどうだったの~?」


 幼い少女はどこかあどけない仕草で尋ねてくる。


「順調ですよ。魔物の強化はうまく行きました。次はいよいよ人間に実験する番ですね」


 俺の報告を聞いた少女は嬉しそうに笑みを浮かべる。


「素敵! もう少しで私達が目標としていることが叶うのね!」


 黒ドレスの少女は酷く上機嫌で今にも鼻歌を歌い出しそうな雰囲気だ。


「はい、すべては我々の悲願のために。それと嬉しい報告が一つあります」


「? なにかしら? 魔族の強化とは別のこと?」


「ええ、それとは別の話です。ーー彼をついに見つけました」


「!?」


 その言葉を聞いた時、黒いドレスを来た少女は大きく目を見開いた。


「あは」


 聞こえてきたのは笑い声。歓喜に打ち震えている笑いだ。


「ねえ、それは本当なの? クレイ?」


「本当です。この目でしっかり確認しました」


「……」


 少女は俯いて自分の肩を掻き抱く。


「ああ……ああ! やっと会えたわ!! グレン!!」


 そして喜びの言葉を吐露する。まるで運命の人と出会ったような口ぶりだった。


「嬉しい、嬉しい、嬉しい!! 今の生であなたと再開出来るなんて夢のようだわ! 駄目かもしれないと思ってきたけど諦めなくてよかった!!」


 少女は機嫌良くその場でくるくると回る。その所作や動きはとても綺麗だ。きっとこれを見た誰もが見とれるだろう。

 だが少女は突然回転をやめ、俺を見る。その瞳には不安が浮かんでいた。


「ねえ、クレイ。彼ーーグレンは今の私達を受け入れてくれるかしら?」


「はい、きっと大丈夫です。ご不安なのですか?」


「……少し不安なの。私が彼に会いにいったとしても何百年も経った今の世で彼が私に忠節を捧げてくれるかどうかが」


「心配されることはないかと。きっと彼は今でもあなた様を慕っています。あなたが誰かが分かれば今世でも忠節を捧げてくれるでしょう」


「本当?」


「ええ、きっと。だって彼はあなたの部下の中もっともあなたに忠誠を誓っていた剣士なのですから」


 僕は跪いて彼女の目線に会わせて、彼女の気持ちを落ち着かせるように言葉を伝えた。

 俺の言葉を聞いた少女の顔に明るさが戻る。まるで花が咲いたような可愛らしい笑顔。


「ねえ、クレイ。肝心なことを聞き忘れていたわ。今彼はーーグレンはどこにいるの?」


「ライアム公爵のところです。剣の才能を買われてかの家の養子になられました」


「そう……彼は幸せそうだったのかしら?」


 ひやり。少女の言葉が冷気を纏う。氷の刃を首にあてられたような感覚に陥る。


「……ええ、とても。満ち足りた生活をしているようでした」


 その言葉を聞いた瞬間、少女の顔が怒りに染まった。彼女の周りを魔力が荒れ狂いながら舞う。並の人間ならこれで吹き飛ばされていただろう。


「ああ、妬けてしまうわ。グレンは私に仕えることで幸せを享受するべきなのに他の人間と家族になって幸せになっているなんて。早く目を覚まさせて私の元へ帰ってくるようにしなきゃね。そうでしょう、クレイ?」


「おっしゃる通りです」


 謳うように言葉を紡ぐ少女、僕は彼女の言葉を肯定する。

 僕の肯定の返事を聞いた少女は僕の頬に人差し指を置いて顎を持ち上げ、僕の瞳をのぞき込む。


「あなたも協力してね? グレンを取り替えすことについて。私以外が彼を支配することは絶対に許さないわよ」


「はっ、お任せください」


 力強い返事をして、僕は自分が仕えている主の名前を口にする。


「すべてをあなたの思うままに、アリス様」

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