第24話
「ねえ、クレイ。もし僕が魔王との戦いで死んだらさ、君がアリス様を守ってあげてね」
最強の剣士、そして俺の共でもあるグレン・アシュヘルトは魔王との決戦が控えていたある時、唐突にそんなことを言い出した。
「いきなりなにを言い出すんだ。そんな縁起でもないことを言わないでくれ。まるで自分が魔王との戦いで死ぬみたいな言い方は不愉快だ」
なぜそんなことを言うんだ、友よ。お前が死ぬはずがないだろう。
友人の言葉に酷く不愉快になった僕は語気も強く彼を責める。
俺の剣幕に驚いたのかグレンは目を見開き、そして自分の発言を反省したのか目を伏せて謝ってきた。
「……ごめん、死ぬ前提で戦いに挑んじゃ駄目だよね。ちゃんと生き残って勝つんだって気持ちで臨まないと」
「その通りだ。まったく分かっているならなぜあんなことを言ったんだ。しっかり反省しろ」
「うん、そうだね」
柔和な笑みを浮かべるグレン。顔立ちが幼いせいか笑うと少年のように見えてっしまう。人懐っこい性格も相まってこいつは女性から好かれている。
「……まあ、理由くらいは聞いてやろう。すまない、さっきは俺も言い方が悪かった」
「あ、いや僕のほうこそ。……ん~、なんていうのかな。根拠はないんだけど剣士としての勘が訴えてくるというか……魔王との戦いは僕でもただではすまないって心のどこかで感じてるんだ」
「……」
「だからもし僕になにかあった時はクレイに女王陛下ーーアリス様を任せたいなと思ってさ。ほらクレイって賢いし戦いも強い。魔王を倒して戦いが終わった後、アリス様は人間の世界を統治しなければならない。そういった場面では僕みたいな剣が強い人間よりクレイのような人間が必要と思ったからね。だから君にアリス様を助けて欲しかったんだ」
「なるほど……」
グレンの話を聞き終えた俺はやつに歩みより、胸ぐらを掴んだ。
「ちょ、ちょっとなにするのさ!!」
俺に胸ぐらを捕まれたグレンが驚いて抗議してくる。
「ふざけるなよ。勝手に人にアリス様を託して死ぬことは許さない。後俺はそんなに頼りないか?」
「!?」
グレンの目が驚きで見開かれる。
「貴様はなんでも自分でやろうとする。それは時に傲慢ともとれる行為だ。……もっとお前は周りを頼ってくれ。なんでも自分でやろうとするな」
「クレイ……うん、そうだね。ごめん、君と僕がいて負けるなんてことはあり得ないよね」
「そういうことだ。……まったくその悪癖はどうにかしろ、アリス様からもさんざん言われてるだろ?」
「あはは……」
俺の指摘にグレンは目をそらす。
「はあ……分かっていてこれだからな、重傷だ」
「あ、悪意があってやってるわけじゃないよう!! ただなんというか染みついた思考パターンというかなんというか……」
「まったく、呆れたな。まあ、そういうわけだ。明日は皆で絶対勝つぞ、そして人間が安心して暮らせる世を始めるんだ」
「うん」
俺とグレンは拳を突き合わせる。大丈夫、今までも困難には打ち勝ってきた、こいつとともに。魔王如き俺とこいつがいればどうとでもなるさ。
それにお前が死んだらアリス様が嘆かれる。お前は魔王を倒したら自分のような人間ではなく俺のような人間が必要になると言ったがそれは違う。アリス様が必要としているのはお前なんだ、グレン。だってアリス様はお前のことを……。
「頼りにしてるよ、魔術師クレイ。そして僕の一番の友人」
自分と共に視線をくぐり抜けてきた友人は俺の顔を見ていたずらっ子のような微笑みを浮かべていた。
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