第26話

 リアナがライアム領に滞在を初めて数日が経過した。今回はこっちに滞在する日が多くとれたようで、しばらくはこっちにいるみたい。僕としては胃痛の種が増えるので嫌だけど。


「ライアム領を見て回るのは久しぶりね」


「前に来たのはいつだっけ?」


「学院生の時ですよ。長期休暇の際、こっちで遊びたいとあなたが言い出したせいでこちらは準備が大変だったんですから」


「あー、あの時ね。うふふ、その節はお世話になりました~」


「機嫌よく言わないでください!」


 ぎゃあぎゃあといつも通り言い合う二人。う~ん、今日も平和だなあ、この二人が言い争っているのを見るとなぜか安心する。

 僕達は屋敷から近い場所を散策していた。公爵様のお膝元だけあってこの辺りは発展しており、様々なお店が出店している。僕達はお店で食べ物を買って先ほどの会話をしながら歩いていた。


「それにしても領内の発展が凄いわね。ライアム領の発展は王都にひけをとらないわ」


「お父様が領民の生活の向上に力を入れられていますから。ただ、ライアムの屋敷があるこの辺りと周辺ではまだ人々の生活に差があるんですよね……」


 お店で買ったアイスをぺろぺろしながら会話するリアナとアーシャ。当然この二人が歩けば目立つため、さっきから人々の目線がこちらに集まっている。

 僕達に気付いた領民がこちらに手を振ってくる。アーシャと僕は軽く手を振り替えした。


「へえ。二人とも領民から慕われているのね。あんなふうに領民のほうから手を振ってくるなんてなかなかないわ」


「アーシャは領民との交流を積極的に行ってるからね。皆から慕われているんだ」

「慕われているだなんてそんな。私はただ領民の生活を把握してこういうことが必要と思ったことをやっているだけで」


「そういうことを真面目にやる貴族って今時いくらいると思っているのよ。このアルバイン王国をすべて探してもそうそういないわよ。皆自分の地位を守ることに必死だし。酷いところは領民から搾取に近いこともやってるわ」


「……」


 リアナの言葉にアーシャの顔が曇る。彼女もそのことは理解している。学院でもそういった家の子どもと接することがあったからだ。むしろ大貴族という立場で驕ることなくこれだけ領民のために権力を用いているライアム家のほうが異常なのだ。


「だからあなたはもっと自分を誇っていいわよアーシャ。これだけ発展した領でその民達から信頼を寄せられるのは賞賛に値することだわ」


「……ありがとう、リアナ」


 少し照れくさそうに感謝を述べるアーシャ。


「でもお父様に比べたらまだまだです。もっと頑張らないと」


「頑張るのはいいけど無茶はしないでね。君が倒れると皆が困るんだから」


 僕は先日の公務で帰ってきて疲れきっていた彼女を思いだす。あれはまた別のことが原因だったが無理がたたって倒れるような真似はやめて欲しい。


「「……」」


 ふと気付くとリアナとアーシャがジト目で僕を睨んでいる。あれ……僕なにかおかしなことを言ったかな?


「ど、どうしたの? 二人とも? なんで僕のことを睨んでいるのかな?」



 僕の質問に二人は一緒に答えた。


「どの口が言ってんの」


「どの口が言っているのですか」


 冷たい二人の返答。酷い! こういう時だけは息ぴったりなんだよなあ。


「あなたは人の心配をする前に自分の心配をするべきね」


「同感です。こればかりはリアナに同意します」


「こういう時は本当に意見が一致するね! 二人は!」


 そんなふうにたわいのない会話をしながら僕達は歩いていく。いろいろなお店を見て回ってアーシャとリアナは楽しそうだった。


「いろいろ回ったわね。やっぱり王都のほうとは品揃えが違うから見て回るのが楽しかったわ」


 両手に袋をいっぱい下げているリアナは満足そうだ。彼女はこっちで見つけた気に入った服を購入していた。


「王都でも服はいろいろ買えるんじゃないの? なんでこっちでわざわざ買い込んだのさ」


「馬鹿ね。こういうのは雰囲気で買うのよ。そこでしか買えないようなものもあるしね」


「ラナはなぜか昔からそういったものには興味がありませんでしたから。服はおかしくなければいいという考えの持ち主なのでリアナのような考えは理解できないと思いますよ」


「なんてもったいない。ラナも超絶美人なのにおしゃれとか服に興味ないなんて!」


 リアナがわざとらしく驚いた様子をする。


「僕がおしゃれとかに興味ないのはリアナも知ってるでしょ。それに僕より可愛い女の子なんていくらでもいるじゃないか」

  

 そもそも中身が男なので服のおしゃれに興味がないのは当たり前なのだ。他人から見ておかしくなければそれでいい。後、アーシャとリアナを見ているととても自分が美人とは思えない。


「駄目よ、そういう考え方は。おしゃれを磨くのは自分の努力が大事よ!」


 身を乗り出して僕に力説してくるリアナ。助けを求めてアーシャのほうを見ると彼女も今のリアナの発言に頷いていた。


「今のリアナの発言には同意します。ラナは美人さんですからもっとおしゃれを楽しむべきです」


「え、アーシャここでリアナと意見を一致させるの?」


 今日は珍しくこの二人の意見が一致することが多い日だ。


「はい、あなたはもっとおしゃれに感心を持つべきだと私は思います」


「ちょうどいいわ。アーシャ、今から二人でリアナの服を選びに行かない?」


「ちょ、ちょっと二人とも! 僕のことはいいってば!」


 どんどん話が盛り上がる二人を僕は慌てて止める。だが二人の勢いを止めることはできない。


「リアナ、いいですね。いきましょう。ほら、観念なさい。たまには私の助言にも耳を傾けて欲しいものです」


 そう言ってリアナは僕の手を取り、歩きだす。いけない、リアナの提案に乗り気になっている。


(ああ、これはもう二人を止めるのは無理そうだ)


 この後、二人にいいように振り回されることを想像しながら、僕はアーシャに手を引かれて強引に服屋へとつれていかれるのだった。

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