第12話

「はあ……」


 公爵様との会話から時間が経過し、僕の養子入りを発表する日となった。僕は今その会場となる大広間の前に来ていた。


「……気が重いね」


 分かっていたことだが緊張で吐き気がする。なにかを食べたら吐いてしまいそうで食事は朝から取っていない。


「本当になんでこんなに緊張してるんだろうね、皆が敵なわけないのに」


 今日ここに来るのは僕がこの家に迎えられた時から僕と面識のある人達ばかりだ。僕と仲がいい人も多いため、別に誰かから攻められることはないのになぜか緊張している。


「……しっかりしろ、僕。前世でこういうことは何回も経験しただろう」


 前世でも戦いで功績をあげた時、多くの人前で称えられることはあったんだ。こんなことで緊張することはない。


(でもこういう気持ちになったのは前世で女王陛下の騎士として任命された時以来かな)


 あの時も僕を騎士にすると女王陛下ーーアリス様が決めた時もおおいに荒れたっけ。前世の僕も剣の腕のみでのし上がった浮浪児だったしなあ。最終的にはアリス様のおかげでいい生活をさせてもらったけど。


「人間っていうのは同じような人生を辿るようにでも出来てるのかな」


 ふと思い返した前世と似たような道を歩んでいることに気がついて僕は苦笑いする。誰かが歴史は繰り返さないが韻を踏むと言ったらしいが真実かもしれない。


「ラナ、どうしたのです? 難しい顔をして扉の前に突っ立ってなにをしているのですか?」


「アーシャ……」


 声をかけられたほうを見るとアーシャが立っていた。怪訝な顔をしてこちらを見ている。


「早く中に入りましょう、皆さんもう来ているはずです」


「ちょ、ちょっと!」


 アーシャは僕の手を取って扉を開ける。部屋の中にはすでに多くの人が集まっていた。


(うわ、公爵様本当に皆を集めたのか!)


 有言実行。このライアムの屋敷の大広間は決して狭くはないはずなのに、それを埋め尽くすくらいの人が集まっている。改めてライアム家の力の強さを確認させられる光景だ。


「あなたも早くどこか座れる場所を見つけて座りなさい。私はお父様の隣にいないといけませんから」  


 アーシャはそういうと公爵様の元へと向かう。一人になった僕は空いてる席を見つけて適当に座った。


 着席した時公爵様と目があった。公爵様はこちらを見て微かに微笑まれる。僕はそれに軽く会釈した。


 公爵様は僕が到着したのを確認すると控えている執事になにか話しかけられる。おそらく招待した者が全員来ているか確認したのだろう。


 執事が公爵様に報告している。それを聞き終わった公爵様は立ち上がり、声を張り上げた。


「皆今日はよく集まってくれた!!」


 公爵様の声に大広間にいる皆が静まりかえる。公爵様の発言に皆の関心が集まった。


「わざわざここに集まってくれたこと心から感謝する。今日は皆に伝えねばならぬことがあってここに集まってもらった」


 公爵様の話に皆が集中している。皆今日なぜここに集められたのか理由をまだ知らされていない、これほどの人を集めたのを公爵様から聞かされるのを皆待っている。


「私は今日ライアム家に養子を取ることを宣言する」


「!?」


 公爵様の宣言を聞いて会場に響めきが起こる。皆驚いているようだ。


「養子だって!?」


「どういうことだ、ライアム家には跡取りのアーシャ様がいらっしゃるのに」


「跡継ぎがアーシャ様だけだから他の人間を後継者候補にしたいのかな」


 皆が一斉におしゃべりを始める。誰もが勝手に憶測を初めていた。公爵様の隣にいるアーシャも初めて聞いた話なのか驚いている。


「静まれ」


 公爵様の一言で再び、大広間は静まりかえる。


「皆いろいろと思うところがあるだろうが今回の養子縁組については私がこれから説明する。さて誰を養子に取るかを皆に伝えよう」


 公爵様は僕のほうを見て、高らかに僕の名前を呼んだ。


「ラナ、ここに」


 公爵様に名前を呼ばれた僕は席から立ち上がり皆の前へ進み出る。


「このラナを今日よりライアム家の養子とする。皆今日から彼女をライアム家の者として接するように」


 公爵様が正式に宣言をすると再び皆から響めきが起こった。皆に戸惑いや驚きが伝わってくる。


「皆この決定に驚いたと思う。これから彼女を養子にとった理由を説明したいが初めてもよいか?」


 公爵様の発言に皆戸惑いながらも頷く。それを確認した公爵様は話し始めた。


「ここにいるラナが我が領内でいつも領民のために動いてくれていること、そして王立学院に在学している時に古竜を討伐し、王国の危機を救ったことは知っているだろう。だが彼女にはなんの地位も与えられなかった。私は彼女には功績に見合った地位が与えられていないことを常々おかしいと思っていた。だから今回の養子縁組を彼女に提案させてもらったのだ」


 公爵様は一端話を区切り、大広間に集まった人達を見回す。異を唱えるものは誰もいない。


「彼女は私の提案を了承してくれた。彼女のような力ある若者が我が家族となってくれれば今後ライアム家はさらなる発展が望めるだろう。私からの説明は以上だ、なにか聞きたいことがあるものは遠慮なく聞いてくれ」


 公爵様の話が終わり集まった皆が思い思いに意見をかわしていた。


「確かに驚いたけど……ラナは私達のためにいつも動いてくれているしな」


「ああ、学院でも優秀な成績を修め、王国に襲ってきた古竜も王女殿下やアーシャ様と共に討伐されている」


「人望と実績共に十分なものがある。公爵閣下の申されるとおり、ラナがライアム家に養子になるのなら家にとっても悪くない」


 皆、公爵様の話を聞いて僕がライアム家の養子になることに賛成の方向に意見が固まったようだ。


「私はラナ様を養子にすることに賛成します」


 誰かがそういうと他の人間も頷き、それに賛意を示す。この場の意思は決まったかに見えた。


「お待ちください!!」


 だがその空気に待ったをかける人物がいた。皆声をあげたその人物の方向を見る。


「ダリアン……」


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