解答と、闘志
*
「──失礼致します」
その男は突然現れた。石床に座り込み言葉少なくうなだれていた四人は皆、一様に驚く。
「ああ、アンタ、専属執事だっけか。アイアンメイデンの」
アメジスタンが皮肉げに口許を歪めディアマンテスを見上げた。
そう、ここはクリスタリオ達のグループに宛がわれた部屋であった。四人は疲れたように固まって腰を下ろし、訝しげな目を執事に向けている。ディアマンテスは優雅に一礼すると、彼らを見回してから口を開く。
「──まずは、ゲームのクリアおめでとうございます。犠牲が一人出たとは言え、最後には完璧なクリア方法すらお気付きになられたようで、素晴らしい洞察力と発想力に感服致します」
その慇懃な物言いに、しかしアメジスタンはハッと鼻で笑い吐き捨てるように呟いた。
「何がめでたいだ、感服だ。シトリーは死んじまったってのに、お悔やみが先じゃないのかってよ」
「ああ、それは失礼をば」
さほど悪びれもせず形だけの謝罪を口にし、執事はシトリーに目を遣った。死んだ時には開いていた目は閉じられ、こめかみの血も綺麗に拭われている。皆で寝かせ直したのであろうか体勢は真っ直ぐで、そして胸の上で手を組んだ様子はまるでただ眠っているかのようだった。
「それでは、次のゲームに備えて少し片付けさせて頂きますね」
やっぱ次があるのかよ、とアメジスタンが舌打ちを零す。四人の様子を気にも留めずに魔銃を箱に片付け始めたディアマンテスに、そういえば、とローゼズが声を掛けた。
「あの、もし良かったら。誰も死なない完璧なクリア、ってのがどんなのか教えて欲しいな。答え合わせがしたいから」
「ああ、そうでございますね」
魔銃を詰めた箱を転移させながらディアマンテスは笑う。そして魔法で床を綺麗にする作業を終えた執事は皆の方へと改めて向き直り、さて、と心地良い低い声で解説を始めた。
「お気付きのようですが、これは箱が重要となっております。床や天井でも構わないのですが、跳弾の危険もありますので箱を使うのが安全でしょう。──まず、それぞれの魔銃を箱の中に向かって発射致します。クリスタリオ様がなされたように」
「五丁全部を、弾が出るまで?」
クリスタリオの合いの手に、ディアマンテスは大きく頷いた。
「その通り。この五丁はそれぞれ、一から五まで重複しない場所に弾が込められております。故に、弾が出るまでそれぞれを発射すると──」
そこでアメジスタンが指を立てながら答えた。
「残る空砲の数は四、三、二、一。一丁は五発目だから残りは無し、だな」
「それを全部足せば丁度十、という事だ」
モリオンの呟きに、執事はにっこりと微笑んだ。
「その通りでございます。皆様は聡明でいらっしゃる」
胡散臭い執事の笑顔に、アメジスタンは再び鼻を鳴らした。解が分かって少しはすっきりしたものの、やはり胸の中に出来た重いしこりのような感情は拭い去れない。すると膝を抱えたままのクリスタリオが、ぽつりと言葉を漏らした。
「その、……ルチルとジェダは、死んだのかな」
「皆様が映像で観た、あれが全てにございます」
「……そう、なんだね」
ディアマンテスの答えにクリスタリオは頷くと、そのまま膝に顔を埋めた。震える背中を、隣に居たモリオンが優しくさする。
「次のゲームまで少しだけお時間を頂きます。それまで、これをどうぞ」
言葉と共に執事が優雅に手を振ると、盆に載ったティーセットとパンの入ったバスケットが現れる。それを見て自分が空腹である事を思い出したのか、アメジスタンの腹がぐうと鳴った。
ディアマンテスは軽々とシトリーを抱え上げ、優雅に一礼して姿を消した。それは現れた時と同様に唐突で、少しだけ四人は呆気に取られる。
──そしてしばらく呆然としていた四人だったが、アメジスタンが大きく溜息をつき、口を開いた。
「食べるか」
身を乗り出し手を伸ばして盆とバスケットを引き寄せ、アメジスタンはパンに齧り付いた。隣ではローゼズが四人分のカップに紅茶を注いでいる。
「うまい」
パンに直接かぶり付くなど行儀の良くない行動である事は分かっていたが、誰も咎めようとはしなかった。ローゼズもモリオンもパンを食み、喉を鳴らして紅茶を飲んだ。
クリスタリオもモリオンに促され、パンと紅茶を口にする。食欲はあまり湧かなかったが、ここで弱ってしまう訳にはいかない。ルチルティアナとジェダの事を思うとずきずきと心が痛んだが、しかし今、クリスタリオの胸には新たな誓いが生まれていた。
──絶対に生き延びる。ルチルとジェダの分まで、僕は生きる。
だから浮かびそうになる涙を紅茶で飲み込み、パンを食んだ。クリスタリオの瞳にはもう、闘志という炎が輝いていた。
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