クリームと、状況
*
「──どうやらこちらのグループは、このゲームを無事クリアとなりましたね」
給仕をしながらディアマンテスは楽しそうに言葉を発した。テーブルの上には、温かいミルクティーとドライフルーツのたっぷりと入ったパウンドケーキが並べられていく。
アメリアはフォークを操り添えられたクリームを掬うと、一口大に切り取ったケーキに乗せて口へと運んだ。香ばしさと甘さ、僅かな酸味が滑らかなクリームによって口内で芳醇に香り立つ。
仄かに甘いミルクティーを啜り、こくりと嚥下してからそしてアメリアは口を開いた。
「このゲームは正解が一つしか存在しないわね。完全に運が味方しない限りは、誰か一人が死ぬケースが多そうだわ。彼らのようにね」
「しかし彼らのように誰かが死亡した時点で気付かねば、被害は更に増えるでしょう。アメジスタン様が語った通り、馬鹿正直にまた全員で撃てば二人目、運が悪ければ更に三人目が死ぬ事となりましょう」
「もう少しだけ、ヒントを与えた方が良かったのではなくて?」
「しかしそれではバランスが取れません。王子やジェッティア嬢のグループはノーヒントだったのです。こちらは即死の危険があるとは言え、状況的には多くのヒントを用意してあるのです。『出目の悪い方』のゲームとしては恵まれていると、自分は思うのですが」
執事の言葉に耳を傾けながら、アメリアはケーキを綺麗に平らげた。少し足りないとでも言いたげなアメリアの視線に、執事が笑いながらそっと手を伸ばす。
「ああ、甘い物はまた時間を置いてお出しする用意がありますので、今はこれでご勘弁を。それより──」
長く整った指先が、アメリアの唇に触れる。端に僅かに付いたクリームを指の腹で拭うと、ディアマンテスはそっと耳許で囁いた。
「確かにお嬢様は、自分にとってケーキのように甘くかぐわしい存在でございます。が、こんな風にクリームで飾られてしまうと、我慢が出来なくなってしまいます故……お気を付け下さいませ」
低く滑らかな声が甘く蕩け、毒薬のように心を痺れさせる。アメリアは少しだけ睫毛を震わせるとちろりと唇を舐める。執事はその様子に低く笑いを響かせ、拭ったクリームの付いた指をさらり舌で舐め取った。
「……さて。こちらのお嬢様方はどうやら、ゲームをまともに解く気が無さそうに見受けられるのですが」
執事の言葉にアメリアも視線を上げた。クリスタリオ達とは別のスクリーンに、五人の令嬢が映し出されている。
「ああ、あの片達ね……。そうね、彼女達ならやりかねないわね、こういう無理矢理で強引な解決の仕方を」
「それにしても、余りにも酷い状況ですね。あのお嬢様方は一体何を考えているのやら」
ディアマンテスがその視線に、まるで潰れた虫けらでも見るかのような侮蔑の色を滲ませる。アメリアも溜息をつき、うんざりしたような声で言葉を漏らした。
「あの片達は、いつもそうやって生きてきたんですもの。自分達が優れた人間であると思い込み、我が儘が通って当たり前。人と見ると値踏みしマウントを取り、自分の為に利用し、虐げ、人を人とも思わない。……そういう人間ですもの」
そしてディアマンテスが淹れ直した温かな紅茶を啜り、冷徹に呟いた。
「まあ、まさか何の躊躇も無くここまでやるとは想定外だけれどね」
スクリーンの中には、五人の令嬢。
──その内の四人が魔銃を構え、一人の令嬢をぐるり取り囲んでいた……。
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